脳筋勇者〜悪役貴族に転生した俺、武器を捨てて破滅エンドを殴り飛ばす〜

@Maryc

第1話「神ゲーに転生した」

──神ゲー青春が、サ終した。

──だから、クソゲー人生を終わらせることにした。


 篠崎 光、中卒引きこもりニート。

 享年十八。死因自殺。

 

 ……そう。俺は死んだ。

 死んだというのに、今急速に──自分が篠崎 光であることを思い出した。

 つまるところこれは、


「……転生、か……しかも……」


 転生先は、かの悪名高いアルカイザ・ヴァン・ダインスレイヴと来た。

 

「あの……如何されましたか……?」


 今世においては聞き慣れた、おつきのメイドの声。

 頭を抱えてうずくまっている俺を心配したのだろう。

 ……俺にとっては、これが初対面か。


 自分の中に、自分じゃない人間の記憶があるというのは、どうにも奇妙な気分だ。

 感覚としては、VR対応の映画を見た時のそれに近い。


「……なんでもない。少し考え事をしていただけだ」


「そ、それは失礼しました……っ!」


「気にしないでくれ」


「え……え……??」


 メイド──そう、名前はアンシェだ。

 アンシェ。

 若葉色のふわりとなびく髪と、黄金の瞳のコントラストが愛らしい美少女だ。

 ……美少女といっても、歳の差は歴然で──。

 ……ええと。

 今俺が十二歳で、アンシェは二十四歳か。


 細かいことはともかく、そんな露骨に「あのアルカイザがこんな温厚な態度を取るなんてありえない」みたいな驚き方をされると、流石に傷つく。

 これでも、頑張って"それっぽい口調"に寄せてるんだ。


 何せ前世はドがつくほどの引きこもりだ。

 ロールプレイは得意だが、その初陣が"美少女との面と向かってのコミュニケーション"というのは、中々にしんどい試練だ。

 むしろ挙動不審になっていないだけ、褒めてもらいたい。


 ……とはいえ、驚くなと言うのも酷な話か。

 このアルカイザという男は、それ程に横暴で邪悪な奴だった。

 もし前世を思い出さず返答していたなら、「許可なく話しかけるなメイド風情が」とでも吐き捨てていたことだろう。


「少し出ていてもらえるか? 一人になりたい」


「は……はい! 御意に!」


 ──さて、思考を整理しよう。


 まず、ここは『フェアリィ・ソウル』というゲームの中の世界ということで、間違いない。

 俺が、人生の全てをかけてやり込んだゲームだ。

 このゲームがサ終したから、俺は自殺した。


 そのゲームの中に転生できた!!

 死ぬ間際に願ったことが叶った!!

 これ以上に嬉しいことはない……!!


 胸の奥の高鳴りが、抑えられない。


 そしてアルカイザ・ヴァン・ダインスレイヴ──通称カイザは、そのゲームに登場するかませ犬、悪役貴族だ。


 "勇者の血筋を持つ辺境伯の令息"という神に愛された設定を持ちながら、怠惰を貪り、横暴の限りを尽くして──。

 最後は、主人公たるプレイヤーに倒されて息絶える。


 よりにもよってなんでこいつに転生したんだ……ガチャで言うなら大ハズレもいい所だ。

 いや、考えようによっては……設定自体は美味しいか? 

 イケメンだし勇者だし。


 中身が俺となった以上、アルカイザは悪役にはならない。

 だが……破滅に繋がるイベントは、他にも多くある。

 アルカイザが仮に善良だとしても、主人公に倒される結末はおそらく……それだけでは変わらない。


 勇者の末裔であるこの身に降りかかる試練は、決して生半可なものではない。


 ……なら……逃げる、か?


 いや、ありえない。

 折角神ゲーに転生したのに、そんな択はアド損もいいところだ。

 逃げたらEXPは手に入らない。


 そもそもアルカイザに起こる"破滅エンド"は、多くの民を巻き込んで起こるものだ。

 逃げたところで助かる保障はどこにもないし、その罪悪感と一生付き合うなんてごめんだ。


 前世は……逃げ続けた人生だった。

 もしまた逃げたのなら、この神ゲーをきっと、俺自身の手でクソゲーにしてしまう。

 それだけは……それだけは、絶対に許せない。


 よし……決めた。


 原作知識をフル活用して、俺は幸せになってやる。

 地理、ダンジョンのマップ、イベントの詳細──この世界のありとあらゆる情報を、俺は知っているんだ。

 ならゲーマーらしく、攻略してやろうじゃないか。


 さしあたってまずは──。


「"武器を捨てて筋トレ"だな」

 

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