第14話:調理Lv7

 サトテルはカエデに肩を貸してもらいながら始まりの街に戻ってきた。どこにもよらずに行きつけの宿屋に帰ってくる。


「ダーリン、お帰りなさーい♪」

「ただいま、モモちゃん」


 モモが可愛らしくスリッパをパタパタとさせながら、こちらに近づいてくる。そして、チュッと軽くこちらの頬にキスしてくれた。


 不覚にもにんまりと頬が緩んでしまった。しかし、幸せの時間は一瞬で破壊された。肩を貸してもらっていたカエデにドンっ! と勢いよく木の床に突き飛ばされてしまった。


「なに、デレデレしてんのよ!」

「すみません……」


"あーあ。サトテルくんは女の扱いがなってねえなあ?"

"ツンデレのカエデちゃんがツンツンモードに入りました!"

"恒例のサトテル土下座タイムの始まり……だなっ"


 youtubeコメントに教えられなくても、こちらはオヨヨ……と泣き崩れながら、カエデに土下座を開始している。


 カエデは「ふんっ!」と鼻息を荒くして、ドスンドスンと足音を立てながら、向こうへと歩いていってしまう。


 カエデは怒りが収まらないのかソファーに腰掛け、隣でお茶をすすっているユリカに「テルお兄ちゃんって最低だと思わない!?」と愚痴をこぼしまくっていた。


 それでもユリカはいつもの澄まし顔でコクコクと相槌を打っているだけだ。カエデのストレスの捌け口となっていながらも、カエデの表情はぴくりとも変わらない。


(すげえな……ユリカさん。俺ならげんなりしてるところなんだが?)


 そろそろ、土下座をやめて、カエデたちが座っているソファーの対面にあるひじ掛け付きの椅子に座る。自分とカエデの間には木製のテーブルがある。


 ここは宿屋のリラクゼーションルームであった。この宿屋は他のプレイヤーも利用しているが、こちらの喧騒に巻き込まれたくないのか、このリラクゼーションルームに足を踏み入れてくることはなかった。


 貸し切りとなったこの部屋で、未だにカエデが愚痴を零していた。こちらは椅子に腰かけながら、うなだれるしかない。


「はいはーーーい! ダーリンをイジメるのはそこまでー。ご飯にしよー?」


 モモがそう言いながら、両手で大皿を抱えている。それをドンっとテーブルの上に置いてくれた。


 すると、カエデとユリカの口から「おおーーー!」と感嘆の声があふれ出す。なんだ? とばかりに顔を上げると、大皿の上には子豚の丸焼きが乗せられていた。


「すっご! モモちゃんが調理したのか!?」

「ふふーん! だてに調理Lv7になったわけじゃないんだからねっ☆彡」

「お、おう。ちなみに回復スキルは?」

「そっちはLv3だよ! ちゃんと上げてるんだからね。オープン・ステータスぅ」


--------------------

名前 :モモコ

モデル:猫獣人

職業 :マジックダンサー

Lv :8

HP :110/110

MP :140/140

スキル:回復魔法Lv3

    料理Lv7

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 喜ぶべきか悩んだ。ぶっちゃけ、回復スキルLv7、調理Lv3にしてほしかった。もっと贅沢をいうなら、パーティにバフをかけるサポートスキルをLv1でもいいから取得してほしかった……。


 しかし、今はまだ第1フロアだ。このフロアでの経験値稼ぎ程度ならサポートスキルは腐りやすい。


 フロアボスに挑戦する時にサポートスキルを取得してもらえばいいと考えを改める。それよりも、せっかく料理を持ってきてくれたのだ。箸をつけないほうが失礼に値する。


「「「いただきまーーーす!」」」

「どうぞ、召し上がれ♪」


 サトテル、カエデ、ユリカがせわしなくナイフとフォークを使って、子豚の丸焼きに手をつけていく。


 子豚の丸焼きの表面はパリッとしている。それでいて、中の肉はとてつもなくジューシーだ。噛めば噛むほど、肉汁が溢れてくる。


"飯テロすぎる!"

"俺もモモちゃんの手料理が食べたい!"

"ゲーム内のただのデータとは思えないくらいに、こいつら美味そうに食いやがって!"

"JCたちと楽しくテーブルを囲む人生を送りたいです……"

"くやしいよう、くやしいよう"

"サトテル、その席、俺に譲れ!"


 youtubeコメントが荒れているが、一切無視だ。こちらは目の前の子豚の丸焼きを食べることに必死なのだ。


 肉を噛むたびに肉汁が舌を刺激する。それと同時に脳内を幸せ汁が駆け巡る。さすがフルダイブ式VRMMOである。本当にごちそうを食べているように脳が捉えてくれる。


「美味い美味い! 調理スキルってバカにできないな!?」

「うふふっ。ダーリンが喜んでくれて嬉しいっ。塩おむすびを取ってくるね~♪」

「塩おむすびまであるの!?」

「うんっ! 調理スキルLv5から作れるようになるんだよ~♪」


 塩おむすび、侮りがたし……と思わざるをえなかった。おむすびの具は入っていない。いや、具など邪道なのかもしれない。


 塩だけで味を調整するのだろう。だからこそ、調理Lv5まで上げなければならないのだろうと予想する。


 モモは塩おむすびが二つ乗った小皿を手にして、戻ってくる。それを自分、カエデ、ユリカの前に置く。


「召し上がれ♪」

「いただきますっ」


 3人揃って、塩おむすびを齧る。「う~~~」と感涙を流してしまった。日本人に生まれてよかったと思える瞬間が訪れた。


「モモちゃん……」

「どうしたの?」

「俺の嫁になってくれ!」

「ずるい! モモちゃんを独占するつもり!?」

「お師匠様……モモさんの手料理はみんなの共有財産です。独り占めは許されません!」

「わーい。ボク、モテモテ~~~♪」


 モモの手料理に舌鼓を打ちながら、テーブルは賑やかだった。モモは締めに鮭茶漬けを出してくれた。お腹はかなり膨れていたが、鮭茶漬けはデザートである。デザートは別腹とばかりに、スルスルと胃の中に収まることになった。


「「「ごちそうまでした」」」

「みんなの食べっぷりにびっくりだよ~」

「それだけ、モモちゃんの手料理が美味しかったって証拠さ」

「えへへ……んもう、ボク、照れちゃうよ」

「よしよししてやろう。ちこうよれ」


 モモが猫耳をピクン! と可愛らしく跳ね上がらせた。そして、おずおずとこちらに近づいてくる。迷っている感じを出しながら、こちらの股部分にお尻をチョコンと乗せる。


 こちらは「よーしよしよし!」とぞんぶんにモモの頭を撫でてやった。「くすぐったいよぉ」と言っているが、ガン無視だ。


"くっ! 仲の良い兄妹みたいだなっ!"

"ロリコンの魂が浄化される絵である"

"サトテルさん。その席、いくらなら譲ってもらえますか?"


 youtubeコメントは羨望で溢れていた。しかし、この幸せな空間を視聴者に明け渡すつもりはこれっぽちもなかった。


 モモの頭を撫でるたびに、モモが気持ちよさそうに「ごろごろにゃ~」と鳴いている。さすがはモデル:猫獣人だ。本物の猫と変わらないくらいに可愛らしい。


「むーーー。モモちゃんだけずるい」

「ん? カエデも頭を撫でられたいのか?」

「そ、そんなことないよ!?」

「ほれ、遠慮するなって。こっちに来な?」


 よっこいしょとモモを隣の椅子に座らせる。自分のひざ元の空間は空いた。今度はカエデの番だとばかりに、軽く両腕を広げてみせた。


 カエデはそわそわとしていた。こちらは「ん?」と首を傾げる。カエデは遠慮している。そんな彼女に対して、ほら、こっちこっちと手招きする。


 困惑しながら、カエデがこちらへとやってくる。モモのようにお尻をこちらの股にある空間にちょこんと乗せてきた。


「よーしよしよし!」

「きゃふん! くすぐったいよぉ……」

「カエデ。この耳、触っていいか?」


 カエデはモデル:エルフである。別名、耳長族と呼ばれているだけあり、特徴的な耳だった。一度でいいから、この耳に直に手で触れたいと思っていた。


「や、やさしくして……ね?」

「おう(さわさわ)」

「……ッ! ……っ!?(びくんびくん!) はぁはぁ……」

「か、カエデ!?」

「テルお兄ちゃんのえっちぃ……」


 カエデが潤んだ瞳でこちらを見つめてきた。こちらは「ごくり……」と息を飲むしかない。カエデの頬が赤くなっていた。手から伝わってくる彼女の体温も急激に上昇しているのがわかる。


 さらに熱い吐息を「はぁはぁ……」と艶めかしく零している。ここまできて、自分はやらかしてしまったことに気づいた。


 この状況をどうにかしようと、ユリカの方へと視線を向ける。ユリカはジト目でこちらを睨んできていた。


(まずったな……距離感がバグってた。これは反省しないと)


 オープン・ステータスを行い、カエデの今の状態を確認する。


--------------------

名前 :カエデ

モデル:エルフ

職業 :マジックアーチャー

Lv :8

HP :160/160

MP :110/110

スキル:弓術Lv6

    魔術Lv3

    小道具クラフトLv1

状態異常:発情期

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 額に手を置き、天井を仰ぐことになった。


(俺……JC2に何してんだよ。ただの犯罪者じゃねえかっ)


 何かで読んだ書物によるとエルフはヒューマンと違い、発情期というものが存在するらしい。


 その発情期に入るスイッチをサトテルは誤って押してしまったようだ。カエデの表情は男を誘惑するそれに変わっている。


 潤んだ瞳と唇。少し湿りがある鼻先。赤くそまる頬。男なら誰しもが据え膳喰わぬは男の恥という状況になっている。


 youtube視聴者たちはカエデの異変に戸惑っている。状況が飲み込めていないようだった。ならば、youtubeコメントが大賑わいする前に、カメラからカエデを遠ざけることにした。


 カメラはリラクゼーションルームに固定しておく。自分はカエデをお姫様抱っこする。そして、急いで、カエデを寝室へと運ぶ。


 そして、カメラが無いのを良いことに、ベッドの上に彼女をそっと乗せた後、軽くカエデの額にキスする。


「ふえええ……エッチすぎだよぉ、テルお兄ちゃん」

「続きは……カエデがもっと大人になった後なっ! あばよ、カエデちゃん!」


 カエデを寝室に残して、自分は逃走した。きっと、これで間違いないのだろう……。自分は出来る限り正しい選択をしたのだと、心に言い聞かせることにした。


(俺、ロリコンだったのかもしれない! 最悪すぎる! 保護者失格だーーー!)

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