ムカデ娘の亜人が家に派遣されてきた話

OH.KAIKON

第1話 亜人派遣法

十数年前、悔离禿詑くりはだ地方という、日本の中でも少子化が進んでいた地域にて、ある急進的な政策たちが施行された。



8月。学生は夏休み真っ只中。

まる1ヶ月羽根を伸ばすことが許された私は、寮の自室でただ横になってスマホを弄っている。


SNSを彩るは政府批判と芸能界の崩壊とつまらないネットミームの群れ。


もう辟易へきえきとし始めたが、理由はそれだけでは無い。


隣の布団で同じく寝っ転がりスマホを弄る女亜人と目が合う。


「……なに?アタシが端麗だから見惚れるのは分かるけどさ、普通に恥ずいからやめてよ」


はぁやれやれとため息ついて寝返りをうち、生意気な事を言い放った彼女は地方政府から派遣されてきた“亜人”であった。


少子化及び急増する孤独死に抜本的に対応する為の亜人派遣に関する法律…………。


現代社会は人と人の関わりが薄まり過ぎた。

少子化、既婚率低下の次に世界が直面した問題は若年層の“孤独死”であった。


その為に諸国政府は、国際医療開発企業が開発した“有機的愛玩人造人間バイオセクサロイド”、通称“亜人”による全人類への接待・・を試みた。


日本も例外では無い。上述の亜人派遣法は議会に激しい紛糾を呼びながらも、若年層大多数が支持した事により何とか採択されたのだ。


派遣対象は主に学生。県庁に申請しなければならないし、何枚もの書類と複数の専門家の面談をパスし無ければならないが、膨大な人数が県庁に殺到した。


スマホを充電ケーブルに挿して寝っ転がり直した彼もそのうちの一人であった。


「生意気言いやがってよ〜そろそろ追い出すぞ」


「はい亜人保護法2条違反〜。あとついでに無理矢理ヤられたって県庁とかマスコミに泣きつくから」


「お前なぁ」


「うるさい。今TikTok見てるから後にして」


“ローゼル=シエンピ=クエッジャーナロ=ポプカフスタン”


彼女の名だ。彼女はいわゆる人工子宮で育てられた“人工世代”でなく、その次の“第一子育て世代”の為、親に名付けられたのだと言う。


先祖代々からの習わしとか、祖国への恭順とかそんなものは亜人達に存在しない。


彼らの起源は、公海上に建てられた研究施設なのだから。


「はいはい、俺は邪魔みたいですからねぇ〜。さっさと出掛けますかねぇ〜っと」


「え?どこ行くの?」


「服買いに中心街まで」


「連れてって!私も買い物したいし」


「え〜どうしよ。さっきのこと謝ってくれたら連れてってやるんだけどなぁ」

自分でも分かるぐらいに口角を上げながら彼女をからかう。

日常的に憎まれ口を叩くのだから、その報いを受けさせてやるのだ。


「えー嘘!?そこでさっきの出す!?」


法的には亜人に人権は無い。

というより我々と亜人では、人権に対する法的な位置付けが大きく異なる。


端的に言えば亜人は、自由民たる人類が所有・・する奴隷もしくはペットという扱いなのだ。

驚く事にこれは世界で標準的な扱いである。


移動の自由、職業の自由、結婚の自由等が当然のように認められない他、亜人に対する犯罪は、人類に対して行われる犯罪よりも極めて軽い処罰で済まされる。


つまり彼の目の前に寝転がる彼女も、彼の同意と同伴を得ずには外出することが出来無いのだ。



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