47 弁解どころかさらに墓穴を掘ってるからっ!


 私と目があったディオンさんが、整った面輪に見惚れずにはいられないようなにこやかな笑みを浮かべる。


 こうやって改めて見ると、ディオンさんってほんとにイケメンだなぁ~。


 攻略対象のロディナルドやキーティス達にも勝るとも劣らぬ顔面偏差値だ。


 こんなに格好よくて親切で冒険者ランクも高いのに、どうして王都の冒険者ギルドじゃなくて、ファークレムの町の冒険者ギルドに所属しているんだろうって、前から不思議だったんだけど……。


 もしかしたら、イケメンすぎて王都だと注目の的で大変なのかもしれない。


「どうしたの? 俺の顔に何かついてる?」


 いつの間にかじっと見つめてしまっていたらしい。


 ディオンさんが戸惑ったように指先で自分の顔にふれる。


 長い指もまた形よくて格好いいけれど、骨ばった手は日常的に剣を握っている人の戦う手だ。


っていうか、困り顔も思わずきゅんとさせにくるなんて、ディオンさんってばすごすぎる……っ!


そんな感嘆に襲われつつ、あわててかぶりを振る。


「あ、いえっ、ディオンさんってほんと、格好いいなぁと思って……」


「っ!?」


 緑色の目をみはって動きを止めたディオンさんの様子に、あわてるあまり考えていたことをそのまま口に出してしまったのだとようやく気づく。


 わーんっ! 私の馬鹿――っ!


 いくらディオンさんがイケメンだからって、考えなしにそのまま言葉にしちゃうなんて――っ!


 ディオンさんのことだから、絶対に言われ慣れているだろうけど、それはそれ、これはこれだ。


 冒険者になったばかりの頃に親切に声をかけてくれて、そこからも気にかけていろいろアドバイスをくれているディオンさんには本当に感謝しているのだ。


 せっかく冒険者の先輩、後輩としていい関係を築けているのに、ディオンさんの顔とか地位とかを目当てに、甘言をろうして取り入ろうとしているだなんて思われたくない。


「あっ、いえっ、その……っ!」


 弁解しないと、と思えば思うほど、焦ってしまって言葉が出てこない。


 が、頑張れ私っ! なんとかうまい弁解をひねり出せ……っ!


「ディ、ディオンさんがイケメンだっていうのは初めて会った時から思ってたんですけれど、お伝えする機会がなかったっていうか……っ! 数日離れて改めて見たら、やっぱり格好いいなぁってしみじみ感じちゃって、無意識に言葉が洩れ出たというか……っ!」


 ストップ! スト――ップ!


 弁解どころかさらに墓穴を掘ってるからっ!


 あぁぁっ! ディオンさんが片手で顔を覆っちゃったし……っ!


 これ、絶対に呆れられてるよねっ!?


「ち、ちが……っ! いえっ、ディオンさんが格好いいのは違わないんですけれど……っ!」


「ちょ、シアちゃん……っ!」


 片手で顔を覆ったまま、ディオンさんが焦った声を上げる。


 あぁぁっ、やっぱり呆れられてる……っ!


「……おれはいったい何を見せられてるんだって気になるんだが……。待たせたな、計算が終わったぞ」


「ジョンさんっ!」


 呆れ果てた低い声にばっ! とカウンターを振り向くと、あまりに勢いがよすぎたせいか、「うぉ」とジョンさんがびっくりしたように身を引いた。


「どうした? なんか今日はいつもと違うぞ」


 体勢を戻したジョンさんが、気遣わしげに眉根を寄せる。


「……王都で、何かあったのか?」


 純粋にこちらを心配してくれているとわかる声音と表情に、心の防御がたやすくほどける。


「はい、ちょっと……」


 頷いた途端、強く腕を掴まれ、引き寄せられた。


「ひゃっ!?」


 たたらを踏んだ私の身体を支えてくれたのは力強い腕だ。


 かと思うと、ディオンさんの真剣なまなざしが真正面から私を見据えていた。


「いったい何があったんだ!? ああっ、俺も無理を言ってでもついていけば……っ!」


 悔恨のにじむ声にあわててかぶりを振る。


「そ、そんなっ! ディオンさんにご迷惑はかけられませんよっ! 大丈夫、たいしたことじゃないんですっ! 見知らぬ男の人にちょっと絡まれそうになっただけで……っ! すぐに助けてもらいましたし……っ!」


「助けてもらった? 誰にだい!?」


 えぇっ!? そこを突っ込んでくるんですかっ!?


 と思うも、ディオンさんが心から私を心配してくれているのは見ただけでわかる。


 そんなディオンさんを邪険にできず、私は視線を落としてぼそぼそと答えた。


「その……。驚くことに、たまたま通りかかられたロディナルド殿下に……」


「ロディナルド殿下っ!?」


 ディオンさんが驚愕の声を上げる。


 同時に、腕を掴む手に力がこもり、私は反射的に肩を震わせた。


「す、すまない……っ」


 ディオンさんが我に返ったように、あわてて手を放してくれる。


「い、いえ……っ」


 び、びっくりした……っ!


 いつも落ち着いているディオンさんが驚愕に表情を凍りつかせるところなんて、初めて見た。


「だが、どうしてロディナルド殿下が……」


「あれじゃないか? 確か、この春からロディナルド殿下は王立学園にご入学あそばされたんだろう? 王立学園の学生達は、毎年春からダンジョンに挑み始めるからな」


 ディオンさんがこぼした疑問に応じたのはジョンさんだ。


 私はこくこくこくっ! と大きく頷く。


「そうですそうです! 確かに殿下は冒険者のような恰好をなさっていました! 冒険者ギルドに行く途中だったんじゃんないかと……っ!」


「なるほど……。そうか、そんな時期か……」


 私とジョンさんの説明に、ディオンさんがようやく納得したように頷く。


 そこに割って入ったのは不満そうなキキとリリの声だ。


 どうやら二人もドロップ品の清算が終わったらしい。


「シアを助けたのは、そのなんとかって殿下だけじゃないにゃ! キキとリリもシアをアヤシイ男から庇ったにゃ!」


「そうだにょ! シアにアヤシイ男を近づかせまいと頑張ったにょ! なんだかすごーく嫌な感じがする男だったにょ!」


 ぶんぶんと腕を振って訴えるキキとリリの暴露に、ディオンさんの顔がふたたび険しくなる。


 私はあわてて口を開いた。


「ど、どうやら冒険者を探していて、たまたま目についた私に声をかけてきたようなんです。急いでいるのでくわしい事情を聞けないと説明して、冒険者ギルドを訪ねたほうがよいと伝えたんですが、ちょっとしつこくて……。大丈夫ですよ! ロディナルド殿下が警備兵の詰め所に連れて行くと言ってくださったので、すぐに別れましたから!」


 これ以上、ディオンさんを心配させたくなくて、本当に大切な情報はあえて隠して伝える。


 あの男の人は、『冒険者に用があるのではなく、私に用がある』と言っていた。


 王都には初めて行ったに関わらず、私のことを探している人物なんて、十中八九、アヴィリアを探しているゴーベルヴィン公爵の手先に違いない。


 やはり、ゴーベルヴィン公爵はアヴィリアのことを諦めていないのだ。


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