プーシーと迷子

碧衣 奈美

プーシーと迷子

 もこもこの真っ白な毛を持つ、小さなひつじのプーシー。

 プーシーは、みんなが眠っている時に見る夢の世界に住んでいます。

 夢には楽しいものばかりではなく、怖いものもあります。

 そんな夢を誰かが見そうになったり、見てしまうと、

 夢の世界に雑草が生えてしまいます。

 雑草で夢の世界が埋まってしまわないよう「その雑草を食べるように」と

 プーシーや夢の世界にいるひつじ達は、

 夢の世界の神様からまかされているのです。


 今日もそのお仕事がおわり、プーシーは小屋へ戻ろうと歩いていました。

 ふかふかのわらでできたベッドがあって、プーシーはそこで眠るのが大好きです。


「あれ? なんだろう」

 プーシーが歩く先に、まぁるい何かが転がっています。

 ぼんやりした白い光の玉で、大きさはプーシーの頭くらい。


 くすん くすん


 誰かが泣いているような声がします。

「もしかして、泣いているのはきみ?」

 プーシーは、ぼんやり光る玉に話しかけました。

「おうち、かえりたい」

 光の玉には目も口もありませんが、小さな子どものような声が聞こえました。

 涙は見えませんが、やはりこの玉が泣いているようです。

「おうちって、どこ?」

「……わかんない」

 どうやら、迷子のようです。

 プーシーはこんな光る玉は見たことがないので、

 どこかから迷い込んだのでしょう。

「じゃあ、わかる所がないか、さがそうよ」

「……いっしょに行ってくれるの?」

「うん、いいよ」

「ありがとう」

 玉はふわりと浮かぶと、プーシーの背中に乗りました。


「きみのお名前はなぁに?」

「ないの。きみは?」

「プーシーだよ。お名前がないと、呼べないね。白い玉だから、白玉ちゃんって

 呼んでいい?」

「うん」

「白玉ちゃんは、どっちから来たかわかる?」

「……わかんない」

「じゃあ、歩いてみるね」

 プーシーは適当に歩いてみることにしました。


「おーい、プーシー。今日のお仕事は終わったの?」

 歩いていると、仲間のひつじメープーが声をかけてきました。

「うん。メープーはこれからなの?」

「そうだよ」

 夢を見る人や動物がすんでいる場所によって、夜になる時間が違います。

 お昼寝している時に夢を見ることもあります。

 なので、プーシー達がお仕事をする時間もいろいろなのです。

「今日は、ライオンさんが見る夢に行くんだ。ちょっとこわいな」

 メープーはプーシーより早くお仕事をするようになったので、

 ちょっぴり大変な場所の夢の雑草を食べるのです。

 夢の中でも、ライオンさんは大きくて強そうなので、そこでお仕事をするように

 言われたひつじはみんな、ちょっとこわいなぁ、と思うのです。

「ねぇ、プーシー……」

 白玉ちゃんが、プーシーの背中で小さくはねました。

 おしゃべりしてないで……と言いたいようです。

「あ……ねぇ、メープー。この白玉ちゃん、迷子みたいなの。何か知らない?」

「え? んー、夢の世界では、見たことないなぁ」

 やはり、白玉ちゃんは別の所から来たようです。

「じゃあ、行ってくるねー」

 メープーはそう言って、お仕事へ行きました。


「うーん。よその世界から来たのかなぁ。でも、どこにどんな世界があるか、

 わかんないし……」

 プーシーは夢の世界と、誰かの夢の中しか知りません。

「どっちへ行こうかな」

 プーシーは夢の世界にすんでいますが、この世界の全部はわかりません。

 知らない場所へ行って、今度は自分が迷子になったら大変。

 なので、プーシーは自分がよく歩くお散歩コースの道を行くことにしました。

「あ、ここのお花。この前までつぼみだったのに、咲いてる」

 道ばたに、赤い小さなお花を見付けました。

 プーシーがくんくんすると、お花は小さいけれど、とてもいい香りがします。

「ねぇ、プーシーってば……」

 白玉ちゃんが、またプーシーの背中で小さくはねました。

 早くおうちへ帰りたいのに、プーシーが道草を食うのであせっているようです。

「あ、ごめんね。んー、だれかに聞いた方がいいかなぁ」

 プーシーがうろうろしているだけでは、白玉ちゃんのおうちが見付かるのは

 むずかしいかもしれません。


「あ、あそこにいるのは、シツジーさんだ」

 プーシーが生まれるよりずっと前から、お仕事をしているシツジーさん。

 お休みだったのでしょうか、お花畑の中でのんびり風に吹かれています。

「シツジーさーん」

「ん? おや、プーシー」

 プーシーはシツジーさんに駆け寄りました。

「あのね、あのね。この白玉ちゃんが迷子なの。

 シツジーさん、白玉ちゃんがどこから来たか、わからない?」

「白玉ちゃん?」

 突然、そんなことを聞かれてびっくりしたシツジーさんでしたが、

 プーシーの背中に 乗っている白玉ちゃんを見て、にっこり笑いました。

「そうか。迷い込んじゃったんだね。プーシー、この道をまっすぐ行くと、

 だんだん暗くなってくる。そこへ行けば、きっとわかるよ」

「そうなの? さすが、シツジーさん。ありがとう」

「ありがとう」

 白玉ちゃんも、プーシーの背中ではねながらお礼を言いました。

「気を付けて行くんだよ」

 シツジーさんに見送られ、プーシーは教えてもらった道を進んで行きました。


「わぁ、本当に暗くなってきた」

 プーシーはきょろきょろしながら、暗くなってきた道を歩きます。

 夢の世界は明るい所ですが、いつもプーシーが食べる雑草が生える夢は、

 暗いものが多いのです。

 だから、暗い場所は怖くありませんが、夢じゃないのに暗いのは

 不思議な気分でした。

「あ……ここだよ。プーシー、もうすぐおうちだよ」

「そうなの? わぁ、よかったぁ」

 プーシーが喜んでいると、背中がふわっと軽くなった気がしました。

「あれ、白玉ちゃん?」

 プーシーが振り返ると、白玉ちゃんはプーシーの背中からふわふわと

 空へ浮かんでいきます。

「プーシー、ありがとう。おうちに帰れたよ」

 白玉ちゃんはどんどん小さくなっていきます。

 でも、空が暗く、ぼんやりと白く光っていた白玉ちゃんは

 はっきり見えています。

「白玉ちゃんって、お星様だったの?」

 すっかり小さくなった白玉ちゃんでしたが、暗い空できらきらと光っています。


「もう、どこまで遊びに行ってたの?」

 白玉ちゃんのそばに、白玉ちゃんより明るいお星様が近寄って来ました。

 あの光は、白玉ちゃんのお母さんでしょうか。

「ごめんなさい。でも、プーシーがここまで連れて来てくれたの」

「まぁ、そうなの? ありがとう、プーシー」

 白玉ちゃんと一緒に、お母さんもきらきらと光ります。

「ありがとう」

 白玉ちゃんやお母さん以外の声がして、暗い空のあちこちできらきら光ります。

 この光は、白玉ちゃんの家族でしょうか。

「白玉ちゃん。また一緒にお散歩しようね」

「うん」

 そう言って、白玉ちゃんは嬉しそうにきらきら光りました。

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