第9話「上級職にクラスチェンジ!」

「ねえ、拳道。私達そろそろクラスチェンジしない?」


 泥酔した客で一杯の、茶色一色の酒場「泥沼亭」のカウンター席で、拳道の隣で冷酒を飲む手を休めて、黒髪の知的美人のプリースト、カレンが、言う。


 「クラスチェンジ?何だそれは」


 再び「?」マークのついたような素でとぼけた顔をして、ガタイのいい武闘家クラスの「パワーフィスター」拳道が聞き返す。


 カレンは、カウンター席に突っ伏した。そして顔をあげると、拳道にキレ気味に言う。


 「だから、ゲームの公式サイトの説明位みなさいよ!このVRMMOは、40LVになると、特殊なアイテムを使えば、上級クラスになって、さらなる強さが手に入るのよ」


 『そうなのか。しかし、ならLVは充分だが、その「特殊なアイテム」とやらは、どこで手に入るのだ?』


 カレンは呆れ気味にため息交じりに答える。


 「クラスごとに場所は違うけど、特殊な敵がドロップするわ。ドロップ率自体は低くないから、露店にも溢れているわね。面倒だったら、特殊アイテムを買っちゃえばすぐよ」


 「ふむ…」


 カレンの説明に、拳道は、少し考える素振りを見せる。


 『この「パワーフィスター」のクラスチェンジのアイテムの出る敵は分かるか?』


 拳道の問いに、カレンはある程度予想していたようで、すらすらと答える。


 『ここの南のラダの町から、東にずっといった所にガル山脈があるわ。そこで「道場」があるから、そこのモンスター扱いのNPCを倒していてば、出るはずよ』


 拳道はそれを聞くと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 「つまりは道場破りだな。面白い、行くとしよう」


 こうして拳道は一人で、南のラダの町に向かい、さらに東の「ガル山脈」に旅した。


               ☆


 VRの陽光の照り付ける、ガル山脈で道場を探す拳道。そこに、武闘家風のNPCが襲い掛かってくる。


 「てやっ!」


 武闘家風NPC飛び蹴りを躱すと、拳道は「甘いわ!」といって「パワーフィスト」のスキルを用い、特攻気味のこの拳の一撃で、武闘家NPCを打ち倒す。


 この襲ってくる武闘家NPCを次々と倒しながら、それを逆に辿るように進む拳道。やがて道場らしき館を見つける。


 「たのもう!」


 バン!と正面から両開きの大扉を開ける拳道。そこは大広間で、多数の武闘家NPCがいた。


 「面倒だ。まとめてかかってこい!」


 拳道は、武闘家NPCを、拳法活劇映画のように、ばったばったとなぎ倒した。


 襲い来る拳と蹴りを、捌いて躱して、拳での強烈な一撃を叩き込むと、武闘家NPCは崩れ落ち、HPが0になり、セル状になり、かき消える。


 それを繰り返すと、やがて、クラスチェンジアイテム「アデプトの印」がでて、武闘家NPCも全滅した。


 が、まだ奥の椅子に座る、ここの道場の主が残っている。


 「では、道場主、一つ手合わせ願おうか」


 拳道が厳つい顔にニヤリと笑みを浮かべてそういうと、道場主である初老の武闘家NPCは、立ち上がってこう返す。


 「印を持って素直に帰ればよいものを、いいじゃろう、相手になろう」


 …拳道は知らないが、この「道場主」は、ここのイベントアイテム調達とは無関係の強力なBOSS格NPCだった。


 禿頭に、長い白髭をはやして、細い長身に白い拳法着を着こんだこの「道場主」はいきなり拳道に飛び蹴りをかましてきた。鋭い蹴りの一撃を受けて、のけぞる拳道。


 「そりゃそりゃそりゃそりゃ!」


 飛び蹴りで間合いを詰めた道場主は、拳の連打で拳道のHPをガリガリ削る。拳道のHPが三分の一ほど削られる。


 『なかなかやるな。では、俺も本気を出そう「スネークカット!」』

 

 それは、足を絡めて転倒させるという、柔術にもにた、足払い技であった。そしてこれには軽度の「スタン」効果もある。


 道場主は横に倒れて、少しの「スタン」状態から道場主が立ち直るまでに、拳道は「溜め」に入る。


 「ぬうううう…」


 そして、道場主が立ち上がると同時に、その「溜め」技を解き放つ!


 「ガイア・アッパー!」


 「溜め」からの突きあげるような拳の一撃をまともに受けて、道場主は、上に吹き飛び、道場の床に落ちる。HPが0になり、セル状になり、かき消える。


 …かき消えた道場主は、ドロップアイテムを落した。それは「黒帯」であり、拳道が拾ってアイテム説明を見ると『「道場主の黒帯」身に着けるとSTRとAGIが倍になる』と書いていた。


 早速その「道場主の黒帯」を付ける拳道。力のみなぎりを感じつつ、クラスチェンジアイテム「アデプトの印」を拾って、下山して、西のラダの町にもどり、北上して、首都ミラディの「泥沼亭」に戻った。


               ☆


 「泥沼亭」でこの話を聞いたカレンは、多分にあきれた様子で、拳道に説明する。


 『あのね、あそこは、武闘家NPCを倒して「アデプトの印」を得たらそこで普通はおわりなの。道場主は倒さなくてもよかったのよ。EXPにもならないし。でも、収獲はあったみたいね』


 拳道はうむ、とうなずいて「この印はどう使えばいいんだ?」とカレンに聞く。


 「普通にアイテム欄から使えば、クラスチェンジできるわ。でも選択肢があるから気をつけてね」


 カレンはそう言い「まあ、拳道の答えは大体想像つくけどね」とも付け加えた。


 拳道は「では、一つやってみるか」と「アデプトの印」をアイテム欄から、使った。


               ☆


 拳道は、真っ暗な空間に出て、システムボイスの声を受けていた。


 「拳の道を行くものよ、汝が求めるのは「光」か「闇」か、それとも「力」か」


 拳道は、右手の拳を掲げるように上げて、この問いに答える。


 『俺の求めるのは…「力」だ!』

 

 そして、拳道は、雷に打たれるエフェクトと共に「ストロング・アデプト」にクラスチェンジした…。


 そして、気付くと拳道は「泥沼亭」の中央に突っ立っていた。カレンが「拳道、クラスチェンジおめでとう」と祝福の言葉を投げかける。


 カレンは、補足するように「上級職にクラスチェンジすると、新しいスキルが覚えられるし、登録スキル欄も倍の20になるわ。忘れずにしっかり整えておくのよ」と拳道に告げる。


 「そうなのか、それはこれからが楽しみだな」


 そこに「泥沼亭」にしばらくいなかった黒髪ツインテールの魔女っ子ロゼリーが入って来て『見てみて、ボク「エンチャンター」から「ルーンマスター」にクラスチェンジしたよ!』と、喜色満面で入ってくる。


 「これで、後はカレンだけだな」拳道が、はしゃぐロゼリーの頭を撫でながら言う。


 『あら、私も、もう「ハイプリースト」よ?露店でアイテム買ってだけどね』


 この間にちゃっかりと上級クラスになっていたカレンがすまし顔で答える。


 …こうして、三人は無事、上級クラスに「クラスチェンジ」を果たした。強大な力を手にした拳道達の冒険は、これにより、さらなる飛躍に入るだろう…。



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