第6話「デュエルの向こう側」
鎖帷子と紫の装束の、スレンダーなくノ一のような美女「シャドウ・アデプト」の黒蘭とデュエルに臨むことになった拳道。
拳道は知らないが「シャドウ・アデプト」は武闘家系の上級クラスで、切れ味抜群の手刀で戦う、技と速さに優れたクラスである。
そしてデュエルで、黒蘭の次々と繰り出す手刀での斬り攻撃に、回避による防戦一辺倒になった拳道。
「そんなものか?私の手刀がそんなに怖いか。骨のある武闘家というのはデマだったようだな」
黒蘭の手刀による斬り攻撃は、速く、そして鋭くかった。回避しながらも、軽い切り傷だらけになり、HPがじりじりと減る、拳道。
「……」
拳道は無言でそれを避け、そして、捌いていたが、黒蘭の優勢は、ドーム外で見ていた者のだれの目にも明らかであった。
そして、拳道のHPが半分をきった辺りで、黒蘭は勝負に出た。
「もらったぞ!」
拳道の胸元に、手刀による、突き攻撃をしたのだ。まともに決まれば、防備の薄い拳道は倒れてただろう。
…しかし、そうはならなかった。拳道は、この「手刀による突き」を待っていたのだ。
拳道は、その右手の手刀での突きを、左脇で挟んで言う。
「それが来るのを、待っていたぞ…」
そして、その挟んだ黒蘭の右手に、空いた右手で、ゼロ距離で「パワーフィスト」のスキルを叩きこむ拳道。
グキッツ!
「ぐあっ!」
黒蘭の右手が、あらぬ方向に曲がる。この「ゼロ距離のスキル攻撃」で、右手部位をやられたのだ。
「ぐうう…」
あまりの激痛に、右手を押さえて、後退してうずくまる黒蘭。
「悪いが、勝負に情けはかけない主義でな。決めさせてもらう!」
そこに、拳道は「溜め」状態に入り、止めの「スラッシュソバット」で蹴り込んだ。
「はああああ…てやっ!」
その「溜め」で威力の上がった特攻の蹴りの一撃をまともに受けて、黒蘭はデュエルドーム端まで吹き飛び、HPが0になる。
(…黒蘭のHP0を確認。デュエル勝者、拳道に確定。デュエルドームを解除します)
システムボイスが拳道の勝利を告げて、ドームは分解するように消え去り、デュエルをした二人は、HP、MPが戦闘前に戻り、拳道の切り傷も、黒蘭の腕の負傷も回復した。
デュエルに勝利した拳道は、片膝をついていた黒蘭の手を取り、立たせて見せた。
「いい勝負だった。勝負を急がなければ、あんたの勝ちだったな」
黒蘭は頭を振り、何か澄み渡ったような晴れやかな表情で、拳道を見やった。
「いや、勝負にたら、れば、はないさ。キミの強さが本物だったと言う事さ」
…いつのまにか、拳道への呼び方が「お前」から「キミ」に変わっている黒蘭。
そして、彼女はステータスウィンドウを指で開くと、フレンド申請を拳道に送る。
「私はキミが気に入ったようだ。だから、よければ拳を交えた記念にこれを受けてくれると、嬉しい」
「ああ、あんたなら、断る理由はない。また、機会があれば、デュエルで試合しよう」
そういって拳道はこのフレンド申請を受けた。そして、黒蘭はその場を一旦去り、拳道は仲間のプリーストの黒髪の知的美人カレンと、エンチャンターの黒髪ツインテールの魔女っ子ロゼリーと合流して、いつものたまり場、茶色一色の「泥沼亭」で飲み直す事にした。
このデュエルをくいいるように見ていた二人は、酒場の席で、拳道を口々に褒め讃える。
『凄いじゃない「黒蘭」は闘技場でも名のあるプレイヤーなのよ!見ててハラハラしたけど、彼女に勝つとは、さすがね』
カレンが珍しく、感情を抑えずに称賛すると、ロゼリーもうんうんと頷いて言う。
『彼女のクラス「シャドウ・アデプト」は武闘家系の上級クラスよ。それを初期クラスの「パワーフィスター」で破るのは、拳道の武闘家の資質がなせる業なのかもね』
拳道は、ジョッキでビールを飲み干すと謙遜混じりにこう締める。
「腕の立つ武闘家同士の勝負は、常に紙一重だ。一瞬油断すれば、即、負けに繋がる。だからあまり褒めてくれるな。調子に乗って、次は負けるかも知れないぞ」
…それは、拳道の本心でもあった。褒めてもらうのは無論嬉しい。しかし増長した心こそ、武道家の最大の敵だと、彼は知っていたからだ。
「さて、デュエルも終わったし、次の冒険先はカレンに決めてもらおうか。ここの所、出番がなくて寂しそうだったからな」
「ボクも賛成~。楽しく狩れる所、きちんと調べて探してね」
「私ですか…。分かりました。適正LVの狩場を調べておきますね」
口々に次の冒険の段取りを話す拳道達。彼らの冒険が次にどうなるのかは、未だ定まらないが、彼らの目は、夢と希望にあふれていた…。
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