アイドル

@nikogori123

第0話

ここ二年間、日本における女性アイドルグループ関連の消費者支出は、およそ一兆九千億円に達するとする市場分析がある。

音楽ソフト、コンサート、グッズ――ファンが注ぎ込む金額だけを見ても、その規模はもはや一つのスポーツ産業に匹敵するほどに膨れ上がっていた。


半世紀前、まだあどけなさの残る若い女性ソロアーティストが、「年少である」という理由だけで“アイドル”という装いを与えられ、テレビに映し出されていた時代があった。

それに比べ、いまや未成年のうちから学業を後回しにし、「アイドルになる」ことを目的に日本各地から東京へと上京する少女たちの存在は、もはやニュースにすらならないほど日常の風景となっている。


日本の女性アイドルグループ市場の成長を語るうえで、宮本正志という稀代のプロデューサー兼芸能事務所社長の名を避けることはできない。

賃金搾取や性的対象化など、数々の批判を浴びながらも、彼はいまなお二十を超える現役アイドルグループを束ねている。放送業界、芸能界全体を見渡しても、指折りの影響力を持つ人物であることは疑いようがなかった。


現在、日本には無名のローカルグループを含め、全国で二千組以上の女性アイドルグループが活動している。群雄割拠の様相を呈してはいるものの、市場の構図は結局のところ、宮本が目をかけたグループが寡占する形から大きくは変わっていない。

その頂点に君臨するグループ――千歳坂。


最高峰のアイドルグループに加入することは、本当に人生の逆転であり、幸福の始まりなのだろうか。

応援してくれるすべての人を幸せにすること、それだけがアイドルに許された唯一の幸福なのだろうか。

もし、アイドルにならなかったなら、もっと幸せになれた可能性はなかったのだろうか。


答えは、たしかに存在している。

だが、それはまだ世に出ていない。

なぜなら、アイドルという職業は――あまりにも多くの「秘密」を抱えているのだから。

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