貞操逆転世界のバーテンダー
モロ煮付け
第1話 とにかく明るい先輩
シャカシャカ。
トンッ。
カウンターから手を伸ばし、カクテルを置く。
シェイカーで作ったのはオールドファッションド、おすすめのと言われたら俺はこれを作る。
王道ながら古風のオールドファッションドは俺も好きだ。
「初めまして、バーテンダーの
「ふーん、アフターとかって行ける?」
「すいません、当店はそのようなサービスは行っておらず......」
セクハラ紛いの触りを軽く流す。
元の世界に居た時なら喜んでついて行った。けども最初の頃、店長から親に連絡が行って家族に泣かれてからは一切やっていない。
「あっそ。で、これ何のカクテル?」
「オールドファッションド、というカクテルでございます。古き良き、などという意味も持っていますね」
少し素っ気ない態度のOL風の女性。
金曜の夜ということもあり、いろいろとストレスが溜まっているのだろう。だが、アフターを聞いた後にそれだとなあ、と俺は思ってしまう。
いまだ手を付けない彼女はアルコールよりも珍しい男性のバーテンダーと喋りたいという気持ちのほうが強そうだ。
数年前、俺はこの世界に転移した。
友人や知り合いが軒並み女性になっていたのを気づいた時は俺も心底驚いたのだ。
そう、ここは男女比が偏った世界。
正確な割合なんかは知らないけど、女性が男性を求める、まさに貞操逆転のような世界に俺は心躍っていたのだ。
「なんのお仕事をされてるんですか?」
「ん、IT系」
ちびちびと飲みながら適当に答える女性。
つまらなそうに答えているがよく見ると、口の端が上がっていて少し楽しそう。そんな雰囲気を纏っていた。
「ITですか......私はあまり詳しくないのですが、プログラミングとかでしょうか?」
「うーん、アナリスト......データの分析する人やってる」
最初こそ不純な動機で始めたが、こちらが親しげに話しかけるとと少しずつ心を開く、それで俺はどんどんバーテンダーにのめり込んでいった。
「でね、私の上司がさぁ......」
ITの女性、
俺がロッカーで着替えていると扉が開いた。
「おっはー!
「ちょ、先輩。ノックしてくださいよ。それに今は朝じゃなくて夜です」
慌てて服を自分の身体に押し付け、先輩を軽く睨む。
こっちの常識では男性の体は隠すもので、女性はあまり気にしない。
「いったん出てくださいっ!」
先輩をつつきながら部屋の外に押し出す。
とにかく明るい先輩の名前は
俺の一個上で髪を後ろにまとめたポニーテールが印象的な、明るい美人だ。
実際、俺も何回かお世話にな、ゴホンゴホン。
完璧に見える先輩も少し、いや致命的な傷がある。
変態、だかからだ。
もう一回言おう、変態だからだ。
いくら顔が整っていたとしても、超超草食系男子には苦手とされていて、今まで彼氏ができたことがないらしい。
積極的な接客で、常連客もついている。
俺も尊敬する、立派な先輩だ。
変態だが。
「香くー......あー、ドチャシコ」
「日向先輩!俺、帰りますから!あとは任せましたからね」
この世界で驚いたことの一つとして、女性が下ネタを言うことだ。普通に考えれば当たり前なのだが、俺には衝撃的だった。
ほとんどの人は男と面と向かって下ネタは言わない。
先輩?
変態だから。
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