転生少年の帝国改革

@stark_

第1話 終わりと始まり

「――そして、勇者セインは剣を振り下ろし、最後の一撃を放った」


画面に鮮烈なエフェクトが炸裂し、最終ボス「カイム・クロスフェイト」の体力ゲージがゼロになる。背景の玉座の間が崩れ落ち、巨大なクリスタルが砕け散る。悲壮なBGMとともに、黒い鎧を纏った青年が膝をつき、やがて崩れ落ちる。


「やっと…やっとクリアした…」


俺はゲームパッドを置き、深く息を吐いた。『シルヴィア・クロニクル』――発売から三年、累計プレイ時間五百時間を超えるこの大作RPGの真エンディングへの道は、あまりにも過酷だった。


特に最後のボス、カイム・クロスフェイトは尋常ではない強さだった。通常攻撃が全体攻撃、属性魔法を無効化するバリア、さらにはHPが一定以下になると発動する「帝国の威光」スキルで味方全員のステータスを低下させる…。


「でも、なぜか憎めないキャラだったな」


エンディングムービーが流れ始める。倒されたカイムの過去が描かれる――帝国の重圧、家族への想い、そして孤独な決断。彼は単なる悪役ではなかった。歪んだ理想のために、自らを犠牲にした悲劇の人物だった。


「もし、彼がもっと早く真の力を理解していたら…もし、孤立せずに信頼できる仲間を持っていたら…」


そんなことを考えながら、俺はベッドに倒れ込んだ。長時間のプレイで目が疲れ、頭が重い。


「少し休もう…」


意識が遠のいていく。


熱い。そして痛い。


まるで全身が炎に包まれたような感覚。次に、冷たい何かが額に触れる。


「おやすみなさい、カイム様。明日も素敵な一日になりますように」


優しい、幼い少女の声。私は目を開けようとするが、まぶたが重い。


「シルヴィア、まだ起きているのか?」


別の声――深みのある、威厳に満ちた男性の声が響く。


「はい、父様。兄様が今日も悪夢を見ていらっしゃるようなので…」


「…あの子は、生まれながらに重すぎる宿命を背負っている。我々ができることは、彼の選択を信じ、支えることだけだ」


「分かっています。でも…兄様が笑うことが少なくなったのが、気がかりで」


会話が次第に遠のいていく。再び深い眠りに落ちる直前、俺は一つの事実に気づいた。


――これは、俺の部屋のベッドではない。

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