現役傭兵の女子校ハーレム生活
パンジャンドラム
序章 《黒髪の野獣》
『首都は解放され、暴君は打倒された。シリア万歳』
街のあちこちでは、亡命した前大統領の肖像画を多くの市民が踏みつける。
「独裁者を倒した。もう敵は居ない」
歓喜に沸く彼らはAK-47で祝砲を空に向けて撃ち尽くす。
銅像はレーニンやフセインのように倒される。
「終わったんだ。自由だ。これは恩赦ではない」
反政府軍によって解放された収容所では、喜びと涙が入り混じる。
大統領官邸には、市民が殺到し、ベルリンの壁崩壊後の東ドイツの施設のように破壊の限りを尽くす。
「た、助けれくれ……」
路上では政権関係者達が
前大統領は政権崩壊前日、政府軍幹部に「同盟国から支援があるから地上部隊は持ち堪えるように」と説明していた。
が、 大統領は同日中に空港に向かい、シリアから脱出した。
逃亡計画は軍の精鋭部隊を率いる弟は勿論のこと、大半の側近さえ伝えずに実行したのである。
力のある長が居なくなれば、体制は一気に崩れやすい。
日本史で言えば、織田信長を失った織田氏は急速に力を失い、関白にまで昇進に成功した豊臣秀吉もその死後、豊臣氏は滅亡した。
20世紀で言えば、チトー(1892~1980)亡き後のユーゴスラビア、チャウシェスク(1918~1989)牛耳るルーマニア、直近では2011年、カダフィ(1942~2011年)大佐殺害後のリビアは無政府状態に突入した。
その例に漏れず、シリアもまた同じ道を歩んだのだ。
捕まった政権関係者は秘密警察の幹部であった。
体制では反体制派を弾圧していたのだが、今回はされる側である。
「殺せ!」
「いや、まずは足を折れ!」
「膝も叩き割れ!」
AK-47の銃床でしこたま殴られる。
AK-47が壊れても、また別のを持ち出すだけだ。
女性の方も憎悪からは逃れられない。
高官の妻や姉妹などは捕まり、市民から平手打ちや唾を吐きかけられている。
彼女らは弾圧には関与していないのだが、国民が生活に困窮する中、豪華な生活を送っていた分、蛇蝎の如く嫌われていた。
一部の女性は引き倒され、無理矢理、バリカンで髪の毛を剃られている。
1944年、パリ解放後、第三帝国に協力していたフランス人の女性は、公衆の面前で髪の毛を剃られるなどしたが、今回のはそれ以来の光景かもしれない。
破壊の限りを尽くされ、路上では公然と私刑が行われる中、カーキ色の迷彩服に防弾ベストとヘルメットを装着した集団が居た。
彼らは反政府軍と行動を共にする民間軍事会社の傭兵である。
元米兵などで構成された集団は、反政府軍による私刑を目の前にしても
政府による国民の弾圧を見たり、聴かされてきた以上、静止することは心情的に難しい。
「あ」
私刑に遭う被害者が集団と目が合う。
明らかに助けを乞う表情だ。
反政府軍も民間軍事会社に気付き、その手を停める。
「た、助けて……」
足を折られ、膝を割られ、顔中が血だらけの残党は、
「おいおい、どうする?」
「見逃そうぜ」
「いや、引き渡した方が良い」
集団の中で意見が分かれる中、
「ちょっと失礼」
中から東洋人の男性がスッと出てくる。
そして残党と目が合うと、
「
笑顔でベレッタM9を抜き、引き金を引く。
「「「!」」」
同僚と反政府軍は、時が止まったかのように動けない。
東洋人は笑顔で何度も撃ち続ける。
頭や顔を目掛けて。
初弾で亡くなったのにも関わらず、何度も何度も撃つ。
カチカチッ。
全弾撃ち尽くしてからは、ベレッタを死体に投げつけ、更には損壊した顔を蹴り上げる。
「「「……」」」
あまりのことに周りの人々は、何も言うことが出来ない。
満足したのか、東洋人は笑顔だ。
「反政府軍の皆様の勝利を私なりにお祝いさせて頂きました。贈り物です♪」
返り血を全身に浴びてもなお、笑顔を絶やさない東洋人。
「「「……」」」
反政府軍は目を逸らし、同僚達も呆れ気味だ。
同僚のアフリカ人の社員は、げっそり気味に言う。
「トーゴー、やり過ぎだぞ? トラウマを植え付けるな」
「今まで散々、見てきたでしょう? これくらい今更なんですか?」
苦言も何のその。
ヘラヘラと男性―――東郷は、態度を変えない。
「本当に……お前さんは狂っているよ。流石、《アジアで最も危険な男》だ」
「恐れ入ります」
「褒めてねーよ」
《アジアで最も危険な男》―――それが彼の異名だ。
由来は《欧州で最も危険な男》と呼ばれた第三帝国の親衛隊中佐、オットー・スコルツェニー(1908~1975年)である。
なお、これ以外にも、
《砂漠の狼》
由来は《砂漠の狐》
エルヴィン・ロンメル(1891~1944年) 陸軍元帥
《黒髪の野獣》
由来は《金髪の野獣》
ラインハルト・ハイドリヒ(1904~1942年) 親衛隊大将
《微笑みのトーゴー》
由来は、《微笑みのアルベルト》
アルベルト・ケッセルリンク(1885~1960年) 元帥
等の異名を持っている。
悪名高い第三帝国関係者に
唯一の救いは、非戦闘員には手を出さない所だろうか。
「「「……」」」
警戒中の民間軍事会社の間にどよんとした雰囲気が漂うのであった。
任務終了後、東郷は上官から呼び出される。
場所は旧大統領官邸。
背後にはズタズタに切り裂かれた前大統領の肖像画がある。
「少佐、休暇だ」
「戦争が終わったからですか?」
椅子に座るラテン系の上官は、キューバ産の葉巻を吸いつつ、続ける。
「それもあるが、軍医から
「期間は?」
「それは上が決めることだ」
一蹴した後、上官は煙を吹きかける。
「許可が出るまで二度と前線に戻ってくるな。でなければ反逆罪として軍法会議送りだ」
「……
不満げに東郷は敬礼する。
「……本当に狂っているな。お前は」
多くの軍人は休暇を告げられると、大いに喜ぶ。
逆に東郷のように不満げなのは、殆ど見たことが無い。
「そうですか?」
「ああ、戦争犯罪だけは起こすなよ。ニスール以来の事件はまっぴらごめんだからな」
「承知しています」
この民間軍事会社が危惧しているのは、戦争犯罪だ。
会社自体は関わっていないのだが、2007年、同業他社がイラクのニスール広場で任務中、誤認を発端とした民間人虐殺事件を起こした。
その会社は世界中から非難を浴びたことを、この会社は知っている。
上官が気にするのは、当然の話だろう。
上官の注意を前に東郷は、ニヤニヤしながら傾聴しているのであった。
[参考文献・出典]
読売新聞 2024/12/14
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