BEASTED
龍乃透
第1話 手を伸ばす
――手を伸ばせば、届いたはずだった。あの日、泣いているあの子に手を伸ばす事が出来たら…震える手を掴めたら…あの子は今も笑顔で…きっと、もっと、俺は俺が嫌いじゃなかったはずだ。
――――――――――――――――――――――
ピロピロと電子音が脳に届く。うつ伏せのまま音の聞こえる方向に手を振り、スマートフォンを手に取る。勝手に閉じそうな目を無理矢理開き、スマホのアラームを止めてから十秒後、ようやく立ち上がる。ボロい畳の上を歩き、洗面所へフラフラと歩き始める。
冷たい水を顔に掛けて、ようやく意識が前を向き出す。鏡に映る自分を、頭の上にある灰色の狼の耳と、端に映る同色の尻尾を見て、意識が完全に覚醒する。櫛を手に取って、髪、耳、尻尾の順に梳かしていく。狼の咬合力でボロボロになった歯ブラシを手に取り、ミントの爽やかさを感じる。もう一度鏡を見た時には、いつも通りの自分、『大神 衛徒(オオガミ エイト)』がいる。
洗面所から戻り、スマホで時間を確認すると、アラームの設定時間から既に十分が過ぎていた。バイトまであと一時間しかない。バイトに遅れる可能性を自覚し、焦りが心に芽生える。
家から駅に走り、ギリギリで電車に乗る事が出来た。休日で遊びに向かう人達が詰め込まれた満員電車には、自分と同じ『ビーステッド』がいる。スマホを取り出して、今日のニュースをぼんやりと見る。
『東京都府中市でテロ事件発生。犯人グループはRebels』
『獣人同盟会のデモ活動が日本警護隊により制圧。ビーステッド差別と非難轟々』
『一部の人間やビーステッドが持つ本能による犯罪が増加傾向にある理由』
…いつもとそこまで変わらない。この世界には、理不尽と日常が溢れている。
ニュースを見ている内に、目的地の新宿駅に着くアナウンスが流れた。電車の扉が開いてから、人に流されるようにバイト先まで走り出す。
バイト先のビデオ屋に向かっている最中、横を通り過ぎる少年が転びそうになったのに気付き、すぐに手を伸ばし、体を支えた。
「大丈夫?怪我してねぇか?」
「…うん。お兄さん、」
「ありがとう。」と、少年が言いかけた時、少年を支える手を母親らしき人間の女性が払いのけ、少年を自分の後ろへと隠した。
「ウチの子に触らないで!このケダモノ!」
母親は、少年を連れて走り去ってしまった。…"ケダモノ"。聞き慣れた言葉だ。
立ち上がって交差点を渡る。人混みの中にいる。老人が、コッチを奇怪な物を見るような目で見ている。いや、此方ではなく、『ビーステッド』を見ている。
この世界は理不尽と日常が溢れている。同時に、理不尽な日常が溢れている。
70年前、『ビーステッド』はとある日本人科学者集団によって作られた種族。人間と同等の知性を持ち、二足歩行で歩く、"動物と同じ特徴を持つ"種族。狼、ライオン、猫、キツネ、ウサギ…多くのビーステッドがいる。ビーステッドの存在が発表されてから10年程で人間社会に参加したが、その時から今も差別が続いている。俺も差別されているし、成人したビーステッドの90%以上が差別を経験している。
バイト先のビデオ屋に入店し、バックヤードに入って店長に挨拶する。
「おはようございます、店長。」
「あぁ、大神くん。おはよう。今日もよろしくね。」
店長は人間で、ビーステッドを差別しない。今だと別に珍しい訳でもない。ここ日本は、ビーステッドの待遇が最も良い国とされている。故に、ビーステッドの数もこの日本が一番多い。日頃から多くのビーステッドと関わる日本人は、他国と比べても差別意識が低い。勿論、差別をする人はいるし、少なくない。若者でも壮年でも差別する人は差別する。
レジに立ち、十分が経った時、無許可でカメラを回している人間の大学生っぽい三人集団がレジに向かってきた。
「ねぇお兄さん、何でこんな所で働いてるんすか?」
「…申し訳ありません。店内で無許可で撮影するのは他のお客様のご迷惑になりますので控えていただきのですが…」
「いや、質問してるんだから答えてくださいよ。もしかして、この耳じゃ人の言葉とか聞こえない感じっすか?」
汚く笑いだす三人は、俺の耳を醜い物と嘲笑する目で見ている。こういう奴等が良い例だ。…いや、悪い例ではあるけど。差別は若いからとか、年を取ってるからとかではない。する奴はする。そして、文句も言える。怒る事も出来る。でも、怒ったって良い事にはならない。精々動画で晒されて、知らない所でネタとして消費される程度。なら、別に何も言わなくたって変わらない。
「申し訳ありません。プライベートな質問は答え兼ねます。」
「何だよ、詰まんねぇ奴。」
大学生たちは何も借りずに店を出ていった。バックヤードから出てきた店長が、心配そうな目でコッチに近寄ってきていた。
「大神くん、大丈夫?その…何かあったら僕に言ってくれても良いんだよ?」
「ハハッ。大丈夫ですよ、店長。あの程度の事、人間相手でもされている人はいるじゃないですか。今回は粘着されなくて良かったですけど…。」
「…そう…。大神くん、我慢しなくて良いからね。」
店長はもう一人のバイトの子に呼ばれてソッチの方に向かっていった。店長は優しい人だ。田舎から上京してきて何も分からない状態の俺を、即採用してくれた。接客業でビーステッドを雇う事にある程度のリスクがある事も承知で、迷わずに。ただ、優しすぎると思う。俺が何か言われる度に心配してくれる。最初の方は俺がクレーム対応しようとすると毎回割って入って俺の事を守ろうとしていた。そんな事までしなくていいと何度も言って、一カ月毎日言ったらようやく陰から見ているだけになったけど、それでも心配し過ぎだと思う。俺に時間を掛けるなら、他のバイトの子に時間を割いてあげるべきだ。
バイトの休憩時間。休憩時間は外で食べても良い事になっているから、俺はいつもビデオ屋から少し花慣れた所にある牛丼屋で食べる。個人店で値段が安く、いつも懐が寒い俺はよく通っている。今日は給料日一週間前で余裕があるから、何かトッピングするか!美味しい肉を食べるのは最高のストレス発散になる。大盛り?温卵付き?それも良いけど…やっぱ肉だな!そうしよう!
「ほらーさっさと認めたら?お腹空いてきたんだよね~。」
「…グッ、放せ!このレイシストめ!」
通りがかった…路地裏で、ハリネズミのビーステッドを壁に押し付けている人間の青年が二人いる。差別。それも、かなり酷いもの。そう判断した時には、既に体が路地裏に向いていた。
「やめろ!こんな事して恥ずかしくねぇのか!」
「おわっ!?何だお前!」
銀髪の青年の手を退かし、ビーステッドを解放すると、銀髪の青年は怒りだした。奥にいる黒髪の青年はコッチを睨み後ろに背中側に右手を回している。
「何だお前って…お前等こそ、二人掛かりで差別して…」
「いや、俺達は別に差別してる訳じゃないんだけど!てか、ソッチの野郎が証拠出してんのに諦めないから仕方なく捕まえただけで…」
「…稲妻。逃げられたぞ。」
「はぁ!?」
後ろを見ると、既にあのビーステッドはいなくなっていた。どうやら逃げれたみたいだ。あとはこの二人をどうにか足止めすればいい。
「大鳳!逃げられてるなら追えば良かったじゃん!てか、さっさと追わないと!」
銀髪の青年はあのビーステッドを追おうと俺を押し退けようとする。俺は体に力を込めて青年の邪魔をすると、青年は俺をまた退かそうし、俺はまた青年の邪魔をする。
「あぁもう!何なんだよお前!こっちは仕事なの!」
「仕事?ビーステッドを差別する仕事なんてどこにある!」
「だから差別してないって…イライラする!あの馬鹿な事考えているビーステッドを止めるのが仕事なの!」
「馬鹿な事?他人の考えを差別で否定する方が馬鹿な事だろ!」
「テロが馬鹿な事じゃないなら、お前が馬鹿だろバーカ!」
…テロ?
「…テロ?…テロリズムの?」
「テロリズムのだよ。逆にそれ以外のテロって何があるんだよ。」
「…いや待て。嘘吐いてんだろ!第一、日本警護隊じゃない一般人がテロを取り締まる訳ねぇ!」
「稲妻、ちゃんと説明した方が良い。」
黒髪の青年が銀髪の青年の横に立って、俺と青年の攻防を止めた。銀髪の青年は数秒悩んだ後、渋々という顔をして話しだした。
「…俺は『稲妻 來(イナズマ ライ)』。コッチの黒いのは『大鳳 炎(オオトリ エン)』。俺達はその日本警護隊に依頼されて、さっきのテロをしようとしてたビーステッドを捕まえようとしてた。お前のせいで取り逃がしたけどな!」
怪しい、怪しすぎる。何で日本警護隊が一般人に依頼なんかするんだ。そんな与太話を信じられるはずが無い。
「信じられないのは分かるが、俺達にとっては取り逃がすと一大事になる仕事だった。だから、退いてほしい。今からでもまた探さなきゃいけないんだ。」
…稲妻と大鳳は俺を見ている。その目には既に差別の目は感じられない。
「…分かった。俺も悪かった。信じないけど、取り敢えずは退く。」
「あぁ、ありがとう。」
大鳳は感謝を述べて、二人は去っていった。…テロ。日本警護局。信じがたい話だ。でも、少なくとも、差別が目的じゃない事は何となく分かった。あのビーステッドも遠くに逃げてしまっただろうし…悪い事をしたかもしれない。俺はスマホを見て…バイトの休憩時間が既に終わっている事に気付いた。まだ何も食べれていないのに。
急いでバイト先に戻ると、店長がまた心配してくれた。
「大神くん!大丈夫?何かあったの?」
「いや、大丈夫です!すいません!」
店長達にも悪い事をした。他のバイトの子からは睨まれているし…この失態を取り戻す勢いで仕事をしなければならない。
―――――――――――――――――――――
バイトが終わり、既に夕日が沈もうとしている。と言っても、ビル群に隠れて夕日は見えない。昼に行こうとしていた牛丼屋に足を進め、今日を振り返る。…あの稲妻と大鳳という奴が気になる。東京ではビーステッド関連のテロやデモは多いが、田舎住みだった俺にはそこまで近い話でもなかった。もし、俺のあの行動がテロに加担するような行動になっていたとしたら…。嫌な事を考える。
牛丼屋の明かりが見えた時…同時に、稲妻と大鳳が見えた。二人も牛丼屋の方角へと足を進めている。…少し迷ってから、俺は二人に近付いた。
「…あの、すいません。」
「はい、どうかしまし、た…?」
「昼の時の狼。」
「…お前…お前のせいで取り逃がしたじゃんかー!このアホ!ボケナス!バカカス!ゴミ!」
「すいません、すいません…」
大鳳は比較的落ち着いているが、稲妻は俺の胸倉を掴んでブンブンと前後に揺らす。首が取れそうになる程の怒りを受け止めている俺に、大鳳は話し出す。
「昼の時の事は俺は気にしていない。稲妻は怒っているし、上司にもグチグチ言われたが…まぁ、お前の行動が間違っていた訳ではない。」
「首ふっ飛ばしてやるよ!」
「ホントにすいません。」
「稲妻。いい加減止めてやれ。ただ、そこまで謝罪の意があるなら、美味しい飲食店を教えてほしい。俺達はここら一帯の事はよく知らないんだ。」
「あ、それなら知ってます。ほら、すぐそこにあるあの牛丼屋が…」
丁度良く飲食店を聞かれ、牛丼屋を指差すと…突然、牛丼屋から甲高い悲鳴が聞こえた。
「…食べられるような状況じゃなさそうだけど。」
二人が店に走り出し、俺も後に続く。牛丼屋の扉を勢いよく稲妻が開くと、そこには牛丼屋のおばちゃんが、昼のハリネズミのビーステッドに捕まっていた。ビーステッドの手には拳銃が握られており、おばちゃんに突きつけられている。食事中だったであろう者達は地面に伏せており、逃げられない状況。テロの話は嘘じゃなかったのか…!
「テロリスト!そのおばちゃんから手を放しな!」
「昼のレイシスト共…!お前等も動くんじゃねぇぞ!動いたら…このババアぶっ殺すからな!」
稲妻がビーステッドに声を出したが、ビーステッドはおばちゃんを人質に脅してくる。稲妻と大鳳はビーステッドから目を離さないが、どうしようもない状況にある事は確かだ。
「いいか!俺は日本警護隊の解散を望む!あんな差別主義組織が許されていいはずがない!俺の…俺の人生をぶち壊しやがったあのクソみたいな軍が!」
「稲妻さん。どうするつもりなんですか?」
「知るかよ…人質取られてる以上はどうもできない。警護隊が来るのを待ったら…アイツ絶対暴れるよな。」
「恐らく。ただ、警護隊解散なんて政治に関わる内容じゃ警察は交渉できない。それに、まだ俺達の仕事だ。」
三人で扉の裏に隠れて話し合う。正直、俺は警察を待てばいいと思うが、この二人は警察じゃダメだと思っているらしい。だからといって、この二人でどうにか出来るような事でもないだろう。
「仕事なんて言ったって、大鳳と俺は覚えられてるだろ…あ。」
稲妻と大鳳がこっちを見てくる。…。
「…俺に何を期待してるんですか?」
「いや、期待はしてない。お前には期待したくない。」
「流石に一般人を巻き込むのは俺も気が引ける。」
…否定しているはずなのに、二人は俺を見つめる事を止めない。その時、店内から一発の銃砲が聞こえ、すぐに悲鳴と怯える声が聞こえた。…『手を伸ばさないと後悔する』。もう後悔しないって決めただろ!
「…俺はどうすれば良いんですか?」
「ありがとう。稲妻と俺と正面であのネズミを注意を引く。君は裏口から入って、気付かれない近付いて、銃をどうにかコッチに向けさせるから、その時に落としてほしい。そこから先は俺達がやる。」
「分かりました。」
大鳳の指示を聞いた後、俺が裏口の方に回り込もうとすると、稲妻が肩に手を添えてきた。
「狼、無茶すんなよ?」
「…分かってます。」
裏口から入ると、厨房に繋がっていた。厨房から客席の方を見れば、ハリネズミのビーステッドは稲妻と大鳳の方に何か怒鳴っている。
「お前等に何が分かる!俺の苦しみなんて人間には分からないだろ!」
…悪いが、ビーステッドにも分からねぇよ。自分の復讐の為に関係の無い人達を巻き込むような奴の苦しみなんて。小さく屈んで、尻尾が高く揺れているのをどうにか抑えて、物音を立てないように動く。…もう少し、もう少しで飛びかかれる距離。牙が震えるような緊張が、心を肉食動物に変える。…その時、横に伏している少年が目に入る。…朝の少年。少年が今にも泣きそうな状況で、横にいる母親は俺を見て「ヒッ…」と小さく悲鳴を漏らした。その悲鳴に反応して、ハリネズミのビーステッドがコッチを見てしまった。
「なっ…お前!?」
ビーステッドは俺の方に銃を向ける。もう選択肢は無い。ビーステッドが発砲すると同時に飛びかかり、肩に少し掠りながら銃を持つ腕に、思い切り噛みつく。ビーステッドは痛さに悶えて銃を落とし、俺を振り払う。
「でかした!」
ビーステッドが銃を拾おうとした時には、既に稲妻と大鳳がすぐ後ろに迫っていた。稲妻が蹴ろうと足を上げた時…
「…俺に触れるなぁ!!」
突然、ビーステッドのハリネズミの毛が逆立ち、飛ばされた。稲妻と大鳳だけでなく、俺や他の人達にもハリネズミの毛が突き刺さる。近くにいたおばちゃんは酷く、胴体に何本も刺さっている。先におばちゃんを机の下まで運び、ビーステッドの方を見ると、飛ばしたはずの毛が既に生えており、銃を手に取って稲妻の方へ向けている。稲妻は避けようとしているが、きっと避けられない。
「死ねぇ!」
「ヤバ…!?」
銃声が響く。耳も…手も痛い。俺は稲妻に飛びかかり、稲妻の代わりに手に銃弾を受けた。血が流れている。痛みに手を抑える俺を、稲妻は横にした机の裏まで引っ張る。稲妻の目から、疑問と焦りが混じっているのが見えた。
「お前、何でこんな事!別に俺を助ける義理なんて無いだろ!」
「うるせぇ!お前を助けねぇ理由が見当たらねぇんだよ!」
稲妻は俺の言葉に少し驚きを表した後…服の内側から黒い棒を取り出した。棒は変形し、剣のような形状になっていく。そして掌サイズ箱のような機械を床に設置した。
「アホか。理由ぐらい考えてから助けろ。…取り敢えず、ここで落ち着いてろよ。」
大鳳の方を見れば、大鳳も拳銃を取り出しており、既に臨戦態勢に入っている。
ハリネズミのビーステッドはコッチに突っ込んでくる様子は無いが、気が立っており、いつ攻撃してくるか分からない。それに、よく分からないが…あのハリネズミのビーステッドは何故か毛を飛ばす事が出来る。それも、人間やビーステッドの体に刺さる程の強度の毛だ。普通、ハリネズミの毛を飛ばすことは出来ないはず。少なくとも、俺は見た事が無い。
先に動いたのは大鳳。稲妻からのアイコンタクトとしての同時に大鳳が顔を物陰から出し、拳銃を数発撃つが、ハリネズミの毛によって弾かれる。
「稲妻!」
「オッケー!」
ビーステッドが拳銃を大鳳に向けると同時に、稲妻が走り出し、ビーステッドが稲妻の方に毛を飛ばすと稲妻はそれらを全て剣で叩き落とし、ビーステッドに近付く。…稲妻の剣が届きそうになった時、またビーステッドの毛が逆立ち、全体に毛を飛ばそうと構える。稲妻は何時の間にか物陰に移動している。俺が安堵し、物陰に隠れようとした時…あの少年が隠れられていないのが見えた。このままだと、あの少年が傷つく。俺の傷も浅い訳じゃない。…でも…
「おい!?狼!出るな!」
「やっぱ助ける理由なんて考える気は無ぇ!」
俺はあの時に決めた。手を伸ばして届くなら全部助ける。それが一番後悔しない!あの子を助けられるなら、俺がどうなろうとどうだっていい!だから…この手はあの子を守らなきゃならねぇんだ!
「お兄さん!」
ビーステッドのから毛が飛ばされる。少年に手は届かない…はずだった。少年の前には、俺じゃない手がある。俺の胴体ぐらい大きく、灰色の毛が生えた、人狼のような手。その手は少年を守ると同時に、俺の体を庇うように守っている。そして、その手は…俺の背から生えていた。
「…は!?ナニコレ!?腕生えてんだけど!あと腕が痛ぇ!」
俺の腕には毛は刺さっていないはずなのに、俺の腕には大量の痛みが走っている。取り敢えず少年の方は無事で良かった。稲妻が俺の方に駆け寄って、次に飛んできた毛を剣で弾く。
「狼!お前も『本能(オリジン)』持ってんのか!」
「オリジン?何言ってんだ!?」
「分かんないなら超能力だと思っとけ!お前は超能力に目覚めたの!だから今から戦え!」
「いや、超能力って言われたって…!?」
「そのデカい腕は動かせるだろ!多分!」
「いつまで喋ってんだぁ!!」
またハリネズミのビーステッドが毛を飛ばす。俺と稲妻に飛んできた毛を、俺は手で頭を守ろうとすると、狼の腕が俺を守るように動き、飛んできた毛を全て防ぐ。だが、やっぱり腕が痛い。多分、この人狼の手が受けた痛みを俺が感じてる。毛皮で守られているからなのか、俺の腕に刺さった時よりも人狼の腕に刺さった方が痛くは無い。
「やっぱ動かせるな!狼のやりたいようにやれ!」
「やりたいように!?」
「オリジンに目覚めただか何だか知らねぇが…たかが一般人如きが舐めんなぁ!」
更に飛ばされた毛を人狼の手で受け止めると、殆ど痛みが無い。これなら…。毛を生やそうと力を込めるビーステッドを人狼の腕で包み込み毛を飛ばせないように握り込む。人狼の腕の中で暴れるビーステッドを気にせずそのまま腕が天井に着くまで振り上げて
「オラァ!」
「ガハァ!」
思い切り床に叩きつけた。人狼の腕は床板を叩き壊し、中のビーステッドを床にぶつけ、人狼の腕を開いた時には、ハリネズミのビーステッドは動かなくなっていた。
「…狼!やるじゃ~ん!」
稲妻が俺の狼の腕に抱き着く。大鳳は安堵の笑顔を見せており、周囲の人々も取り敢えず危機が去った事を察知して安心している。すぐに警察が来て、事態は収束へと向かっていった。ハリネズミのビーステッドは立て籠もりの犯人として警察に連行され、被害者は怪我をした者は病院に運ばれていった。牛丼屋のおばちゃんと少年が心配だったが、おばちゃんは命に別状は無く、少年の方は無傷らしかった。俺は全身の怪我が深いので、病院に運ばれる事になったが、どうやら稲妻と大鳳が付いて来てくれるとの事だった。…救急車に乗る前、少年とあの母親が近付いてきた。
「…あの、有難うございました。」
「お兄さん、ありがとう!」
「……。いえ、無事で何よりです。」
少年と母親は感謝を述べると、母親の方はそそくさと何処かへ行き、少年の方はコッチの方を見ながら母親に付いて行った。救急車に乗り、ベッドに座る。…あの子が救えた。それだけじゃない。沢山の人を救えた。奇跡みたいな力のお陰だけど…手を伸ばしたから、助けられた。それだけで、十分だ。
【次回予告】
病院で目を覚ました大神衛徒。傍らにいる稲妻来と大鳳炎から伝えられたのは『何でも屋のスカウト』。何でも屋?テロ対応なんかしてる奴等が?疑問のまま一度何でも屋に向かうと、そこにはなんか怖い人となんかヤバそうな人!
明らかに反社な雰囲気の何でも屋!そんなに教えられない本能≪オリジン≫の正体!店長に会いたい!
次回、『何でも屋は危険な香りがする』。
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