ハッピーミキサー

 この世界にはあるミキサーが流通している。それは感情を入れて一つのものにまとめて、摂取することで感情を手に入れる一過性のもの。いろんな人が幸せのために購入して、その材料にな る幸福の感情も購入する。大元がどこから来ているのか分からなくても皆何も気にしない。それが生きている人間から取られているのか、死んだ人間からか。そもそも何から生まれた幸福か。誰にも知られていない。ああ、なんてばからしい。なんて素晴らしい。みんなが幸せに、気分良く過ごせる。部屋にミキサーの稼働音が満ちる。

「涙を流すモノに乾杯」

 ミキサーの稼働音が止まり中身を飲み干す。その視線の先には積み上げられた動かないモノ。それを前に人物は笑う。

 ありがとう。私に幸福をくれて。ありがとう。私に富を享受させてくれて。

 鼻歌交じりに人物は部屋を退室する。その部屋に閉じ込められたうめき声は外に決して届かない。絶望は外に見せてはいけない。それがハッピーミキサーの役割だ。

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