第6話
アリシアは町を離れて道を歩いていた。
交易路として使われているはずの道は人っ子一人いない。すれ違う人も皆無だった。
アリシアはコリンを探して道を進んだ。
(もう盗賊に捕まっていたらどうしましょう……)
しばらく進むと林の中に入った。アリシアは慎重に周囲を確認するが、人の姿はない。
(盗賊どころか誰も見当たりませんね)
アリシアが気を緩めた時だった。
背後から男の声がした。
「まさか若い女がこんなところに来るなんてよ」
アリシアがハッとして振り向くと、そこには髭を生やした大男が立っていた。
ニヤリと笑う大男の背後には部下と思しき男が数人笑っていた。
アリシアはゴクリとつばを飲んで尋ねた。
「用が済めばすぐ帰ります。それよりコリンという少年はご存じですか?」
「コリン? 誰だそれ?」
大男が首を傾げるとアリシアはすぐさま理解した。
(まだ少年は盗賊と会っていないのならばここは逃げて少年を探すのがベストでしょう)
「ご存じありませんか。では私はこれで」
「おい待てよ。はいそうですかって帰すわけねえだろ。若い女は高く売れる。姉ちゃんみたいな美人なら尚更な。悪いがついて来てもらうぜ。それとも乱暴なのがお好みかい?」
大男の冗談めいた話し方に部下達は面白がって笑っていた。
アリシアは小さく嘆息した。
「いえ。できれば穏便に済ませたいと思っています。なので――」
アリシアがポケットに手を入れた時だった。
草むらから少年が飛び出してくる。それは他でもないコリンだった。
「やっと見つけたぞ! 盗賊! お前ら全員覚悟しろ!」
ナイフを持って大男に襲いかかるコリンを見て、アリシアは呆れ果てた。
(最悪ですね……)
コリンの勇気ある突撃は大男によってあっけなく制圧された。
大男は慣れた手つきでコリンの腕を掴むとそのままひょいっと持ち上げる。
「なんだこいつ?」
コリンは暴れながら怒鳴り散らした。
「お前らのせいでお母さんの薬が高くなっちゃったんだ! さっさと出てけよ!」
それを聞いてアリシアはなぜコリンが盗賊退治をしようとしたのか悟った。
(そういうことですか……)
大男はコリンが持っていたナイフを取り上げた。
「いまいち分からねえが無理な相談だな。おい。こいつ縛っとけ。そっちの姉ちゃんと一緒に売り飛ばす」
大男に命令されると部下の男達が「へい」と返事をした。
アリシアは焦った。
(まずいですね。あの子が攫われたのがバレたら私の責任問題になります)
「お断りします」
アリシアはポケットから先程武器屋で買った煙玉を取りだし、盗賊団に投げつけた。
大男の足元に着弾するともくもくと煙が上がり、すぐさま視界を塞いだ。
「なんだこりゃぁっ!?」
慌てふためく盗賊団。
その声を頼りにアリシアは大男に近づいた。そして見つけると大男の足を思いっきり踏んだ。
「ふん」
「いてえええっ!」
小指を踏まれた大男は痛みに驚いてコリンを手放した。
アリシアは地面に落とされて痛がるコリンの手を掴んだ。
「逃げますよ」
「え? って受付嬢のお姉ちゃん? なんで?」
「話はあとです」
アリシアは半ば無理矢理コリンの手を引いて走り出した。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」
アリシアは煙幕の中から飛び出すと来た道を戻った。
だが少し走るとコリンを連れて草むらへと隠れる。
煙玉の効果は数十秒ほど。すぐに煙は流れてしまう。二人の足では逃げ切れないだろうという判断だった。
「今はひとまずここに隠れてやり過ごしましょう」
アリシアは小声でそう言った。するとコリンはムッとする。
「隠れてばかりじゃあいつらを倒せないよ」
「隠れてなくてもあいつらは倒せません。ここは一旦退いてギルドに応援を頼みましょう」
「ギルドなんてなんの役にも立たないじゃんか。だからギルドの代わりにオレが倒すんだ。急がないと母さんが……」
「……気持ちは分かりますが人にはできることとできないことがあります。そしてその間にはできるけど面倒でやりたくないことが大量に存在します」
「面倒でやりたくないこと?」
「……忘れてください。とにかく私達だけであいつらを倒すのは不可能です。まずは町に戻りましょう。薬は私がどうにかしますから」
アリシアは面倒そうにそう言った。それがよくなかった。
コリンはムッとして立ち上がる。
「イヤだ! お姉ちゃんだってギルドの人間だろ!? だったら信用できない! なにより面倒くさそうだもん!」
「…………あ」
「…………あ」
コリンは叫んでから近くに盗賊達がいることに気付いた。
部下の一人が大男に言った。
「カシラ~。いました」
「よし。とっ捕まえろ!」
「へい」
アリシアとコリンは盗賊団に囲まれ、あっという間に捕まってしまった。
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