異次元10冊ノート

ろうそく魔神

プロローグ 暮落 才伍(クレオチ サイゴ)

 今思えば、「暮落クレオチ 才伍サイゴ」という男は『元の世界』では何者でもなかった。


 学生時代は直接イジメられることこそなかったものの、親友と呼べる人ができず体育の授業では「2人組のペア」を上手く作れなかった。


 熱心に打ち込んでいる趣味があったかといわれると、それもなかった。


 RPGゲームは1度ストーリーをクリアすれば満足して裏ボスまでやり込むようなことはなかったし、音楽を作ろうと思ってパソコンに作曲ソフトをインストールしたが3日ともたなかった。


 いい大人がよくやるような「自動車」とか「釣り」なんかは全く興味が持てず、食事にいたっても「味が濃ければいいな」くらいのこだわりしかない。


 かといって何もしない訳には行かず、続ける意味もよく分からない仕事に就いて、衣食住だけは維持できるような稼ぎだけで28歳まで何事もなく生きていたのだか──


「まさか本当にノートを作るだけの能力で異世界転生させられたのか?」


 無味無臭の男、人生最大の危機だった。

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