第12話『最も恐ろしい能力』

「人の心を動かす、能力?」

「そうだ。相手の心を動かす。例えば突然心境を変化させたり、無理やり説得したり、…意のままに、操ったり」

「それはまた、とんでもない能力ね。本当に運が良かったわ」

「運が良かった? どういう意味だよ?」

「そんなとんでもない能力を得たのがアンタで良かったってこと」

 小百合は良助の胸をポンとはたいて、ゆっくりと立ち上がった。少しだけ足が震えていたため、良助は肩を貸した。

「俺で良かった? もし俺が、おまえや他のみんなに…この能力を使ってたらどうすんだよ? いや、使ってないけどな?」

「そんなの分かるわよ。アンタは、…良い奴よ。アタシはそう思う。寝起きなのに三十分で電車乗って呼びつけに応じる奴なんて中々のお人好しでしょ。…それと具体的な根拠が欲しいなら言ってあげるけど、ユーザーには能力の残滓みたいなのが見えるのよ、能力を受けた対象にね。もし自分に能力が使われてたらその残滓が自分に残るから分かるの。つまりアンタは少なくともアタシに能力は使ってない。今のところはね。もし使われそうになったら先にブチのめすから、そのつもりで」

「あ、はは…そうか、ありがとうな」

「だから礼を言うのはこっちよ。でもギャンブルだったわね。能力がまだハッキリと分かってないままでいきなり使ったなんて。もし、しょーもない能力だったらアタシ終わってたじゃない…因みになんて命じたのよ? そもそも命じるっていうの?」

「いや、とにかく…頼むから、今やろうとしてることをやめろーって、お願いしたって感じかな…あと、ついでに自首もしろって」

「命じるっていうかお願いする、か。情けないアンタらしいわね」


 二人が外に出ると、入り口で三人が心配そうに待っていた。良助は事の顛末と、自分の能力のことを話した。それを聞いた三人の反応もまた、小百合と同じようなものだった。

「なるほど~、ってことはやっぱニイサンは良い奴ッスね。普通そんな能力手に入れたら使いますって、そりゃ色々と」

「何なのよ色々って。なんかヤダなぁ」

「私たち誰もそんな残滓感じてないから。でもそんな事確認しなくても分かるよ、あなたはそんな使い方しないって」

「みんな、ありがとうな。…その、引かないんだな」

「そもそもワタシたちユーザーっていう時点で一般人からしたらドン引きもんよ」

「そそ、まぁ、桃チャンはそれ以外に…」

「何か言った?」

「やめて、マスク取ってフード上げようとするのやめてマジで」

 三人の心遣いを感じ、良助は心の底からホッとした。しかしその安堵の理由はやはり、小百合が無事だったことのほうが大きかった。ようやく緊張の色が良助から消えたのを見て、小百合は口を開いた。

「けどまぁ、白金さんに報告しないといけないわね。このまま事務所帰りましょ、アンタも」

「分かった。俺もそうしたい。…そういえば、残滓が分かるって言うけど、緑ヶ丘さんって、開運セミナーの時に自分も能力に掛かってたって思ってたよな? 分かんなかったのか?」

「あぁ…あの時は周りの空気に飲まれてて…分からなかったの。超能力ってほら、メンタルが関わってるというか、集中力が大事というか…」

「何くっちゃべってんのよ、さっさと行くわよ」


 ただでさえ手狭な事務所に六人も集まれば、比喩ではなく足の踏み場もないと言った有様だった。白金は良助の話を聞き、別段驚きもせず、机の中から紙を一枚取り出した。それは博物館にあった岩永不如帰の記事が書いてあった新聞のコピーだった。

「君の能力を聞いて、心当たりがある。それがここに書かれている。聞いたところによると君もこの記事を見たんだね? それでもしかすると…と、思った?」

「あ、あぁ…。今思えば二年前にこの街に越してきた時に、やけに周りが親切だったのも、無意識にこの能力が出てたのかもって。勝手に能力が出ることって、あるのか?」

「二年前の調べによると、発現してしばらくの間はそういうケースも中にはあるみたいだ。それから仮説を立てるに…君は自分自身にもその能力を掛けてしまったのかもしれないね、発現して直ぐに」

「それってどういう…」

「これは憶測だが、その瞬間に君は何かを忘れたいと願った、とか…それが、心を動かす能力という能力が曲解して君のその瞬間の記憶を忘れさせた。心とは脳にある…と考えたら、なくもないかな。あくまで仮説だけどね」

「忘れたいこと…まぁ、あったような気もするか…けど凄い曲解だな、また」

「能力の曲解というのは実際にあるよ、でもそれを説明するには先ず、ユーザーがどうやって生まれたか、から語るしか無い。…多分、それは工藤君が考えていることでほぼ正解だ」

「俺が考えてること…岩永不如帰の死…それとユーザー誕生が深く関係してるだろう、ってことだが…」

「そうさ、そのとおり。これも確証はないけど、岩永不如帰がこの街で命を終えたその瞬間、ユーザーが誕生した。それは調べで間違いない。恐らくその際に、彼女のあまりにも大きすぎる超能力が彼女という器を失ったことで分散して、この街の、ある特定の人々の中に取り込まれた…と考えている」

「ある特定の?」

「ユーザーは必然とユーザーに出会う機会が多いから、君にはこの街にはユーザーが溢れかえっているように見えるけど、実際は街の人口に対して本当に数えるほどしか存在しないんだよ、ユーザーは。だから一般人からすれば、やはり都市伝説的な存在とされているんだ」

「そうだったのか。ということは、その不如帰の能力を受け継いだ人間には、珍しい共通点がある、ってことか…?」

「そのとおり。極めて確率の低い共通点。それが受信機の役割を果たした。そしてその共通点とは、不如帰の死のその瞬間である二年前の四月一日の午前十一時、その瞬間に、何かを変えたいと強く願っていた者…少なくとも僕たちCOLORS全員にはその共通点が一致する。君にも何かあるはずだ。…いや、勿論、言わなくて良いよ、プライベートなことだからね」

「けど、二年前の四月一日か…心当たり無いけどなぁ…」

「まだ能力の影響で思い出せないだけだろう。それに、そのことは大して重要ではない。君がユーザーであることは紛れもない事実なんだからね。それより重要なのは、以前の監禁事件のことだ」

「そうだよ、あの犯人の能力の方がよっぽどヤバくないか? だって時間を止められるんだろ?」

「あぁ、あれはね、単に時計の針を動かせるっていうだけの能力だったんだよ」

「ショボっ」

「能力を上手く活かせないから、あんなのに手を染めたのかもね。まぁそれは置いといて、あの時、君は狙われた。青山君の仮説がもし当たっていれば、非常に不味いことが起きるかもしれない」

「仮説?」

「ユーザーの能力を把握している者がいる。というものだよ。もしそんな者がいて、尚且つ悪意を持つ者だとしたら、ユーザーを集めて何らかの方法で能力を自分のために使わせようとするよね。力と手段と条件さえ与えれば、簡単に人を従わせることはできるからね。あるいは利害の一致とか。そして、それをするのに最も手っ取り早いのが、君の能力だ」

「俺を上手いこと取り込みさえすれば、ユーザーを簡単に従わせられる…」

「君はどうやら、見返りさえ与えれば言われるがままに他人を操る人間だろう、と思われたんじゃないかな。まぁ、そういう人間の方が多いのは事実だが」

「心外だな、まったく」

「とにかくこれは僥倖と言える。君が我々と敵対していないということがね。そして我々が今後取るべき最重要課題だが、まずはこの仮説が事実か単なる思い過ごしか、それを調べること。根拠は全くないが、その…ユーザーにしか認知できない求人サイトというものは気になる。そしてそれを運営するイワトコーポレーションも須照市にある…何か動きだそうとしているのか、或いは…」

 白金の話はそれで終わり、其々が事務所をあとにする。最後に一人残った良助は、白金に呼び止められる。

「工藤君、待ってくれ」

「はい?」

「小百合君を救ってくれて、本当に有難う」

 白金は立ち上がって良助に頭を下げた。

「いや、そんな、顔上げてくれ。俺は無我夢中でやっただけで、たまたま運が良かっただけだ」

「それでもだ。…僕はね、もう誰も失いたくないんだ」

「誰も…?」

「君には…そうだね、話しておこうかな。我々がCOLORSを結成した理由を」


つづく

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