閃光の女騎士レイと、私が歩む白百合英雄譚
うしゃぎ伯爵
プロローグ
かつて、この世界は七つの王国が互いに武を競い、静かな対立の影を落としていた。
しかし、すべてを呑み込み滅ぼす“絶望”は、もっと別の方向からやってくる。
――魔王の誕生である。
魔神が“遊び相手”として創り出した存在。
世界の理をねじ曲げ、数え切れぬ魔物を従える災厄の象徴。
人々は手を取り合い、七つの王国は初めて真の意味で結束した。
それでもなお、戦いは五十年という長い年月を要し、街は焼け、大地は裂け、世界は死にかけていた。
その終わりを告げたのは――
たった一人の青年、後に“勇者”と呼ばれる者である。
---
150年前
轟く雷鳴の下、ふたりは最後の刃を交わしていた。
勇者「これで……終わりだ……!」
魔王の巨体が崩れ落ち、勇者自身も膝をつく。
互いの力はすでに限界を超え、風も雨も、ただ静かにその結末を見届けていた。
魔王「所詮我は……憎き魔神の私欲で造られた……操り人形にすぎぬ……
やがて魔神は世界を滅ぼすだろう……」
勇者「なにを言っている……!」
魔王は薄く笑った。
その瞳には、怨みと同じくらい深い、諦めにも似た感情が揺れていた。
魔王「だが……貴様なら、もしかしたら……」
魔王は槍を支えに立ち上がり、最後の力を振り絞る。
魔王「今から我は、私欲のために動こう……!」
黒い光が奔り、勇者の胸へと突き刺さる。
勇者「くっ……これは……!」
流れ込んでくるのは、魔王の“呪い”と“記憶”。
魔神の存在、魔王の誕生の真実、そして魔王自身の憎悪と願いまでも。
魔王「貴様と戦えたこと……誇りに思うぞ……
――勇者よ。先に逝っている……」
雨の中で、魔王の身体は静かに消えていった。
勇者は空を仰ぎ、滴る雨の向こうに、まだ遠くにある未来を見つめていた。
「……世界を守る。
そして、あいつの願いを無駄にはしない。」
それが、長い“準備”の始まりだった。
---
魔王討伐から百四十五年後。
大森林の奥深く、雷光のような魔力が空を裂く。
聖堂騎士団第二隊隊長、レイ・スターフィールドは剣を振り抜き、ついに“大魔女ベルフェ”の胸を貫いた。
レイ「……これで、終わりだ……!」
崩れ落ちていく大魔女。
しかし、消滅の直前――。
ベルフェ「ふふ……甘い……!」
彼女の指先から放たれた細い光が、幾重にも重ねた結界を貫通し、レイの胸へと突き刺さる。
レイ「……ッ……!?」
世界が反転するような感覚とともに、レイは意識を失った。
***
モブ兵士「スターフィールド伯爵!? しっかりしてください!!」
モブ兵士「待て……伯爵の身体が……!?」
その日、激しい雨と共に――
後の歴史書にも記される、「前代未聞の出来事」が世界を駆け巡ることになる。
---
そしてそこから五年後。
ある村の朝。
ひとりの少女が背負い袋の紐を締め直していた。
ソフィ「よし……これで全部かな!」
ソフィ・アルスタイン。
つい先月十八歳になったばかりの、笑顔がよく似合う村娘。
今日は“冒険者”になるために、生まれ故郷を旅立つ日だった。
ソフィ「その前に……行ってこなきゃ」
向かった先は、村はずれにある小さな祠。
幼い頃から掃除をし、話しかけ、剣の練習もこの前でやってきた――彼女にとっての“原点”。
ソフィ「行ってくるね、祠さん」
風がふわりと木々を揺らし、祠はまるで頷いたように静かに光った。
***
村の入り口には、家族、幼なじみ、近所の人たち、そして村長ノーラが揃っていた。
「気をつけておいでよ」 「いつでも帰ってきなさい」 「変な男に捕まるんじゃないよ!」
賑やかで、あたたかくて、ソフィの胸がじんわり熱くなる。
そんな中でノーラは、長い布に包まれた杖をソフィに差し出した。
ノーラ「アンタが持っていきな」
ソフィ「えっ……これって、祠の……!」
何千年も前、“厄災の獣”を討った女神が使ったと伝わる杖。
村の守護として大切に祀られてきたものだ。
ノーラ「ただ祀っとくだけじゃつまらないだろ?
アンタが役に立てておやり」
ソフィ「ありがとう……!大切にする!」
弟のルインも最後に追いつき、薬草をどさっと詰めた袋を渡す。
ルイン「無理すんなよ、姉さん。応援してる」
ソフィ「うん……!ありがと!」
すべての想いを背に受け、ソフィは大きく深呼吸をする。
ソフィ「よーし……!頑張るぞーっ!」
こうして、世界を変える彼女の旅が――
静かに幕を開けた。
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