最強傭兵ファントムバレット、転生したら美少女JK(重火器持ち)になったので配信します

火猫

第1話 ダンジョン配信、始めました(元・傭兵)

視界が、やけに暗い。


天井は岩。

湿った空気。

微かに硝煙の残り香。


俺は床に仰向けで倒れていた。


「……生きてる?」


思わず声が出る。


冷静になれ…。

まず状況整理だ。




俺の最後の記憶は、引退前の最終任務。

仲間に背後を取られ――銃声。

そして痛みと、暗転。


「……死んだよな、俺」

あの感覚は…確かに死んだ、はずだ。


だとするとここは、あの手のやつか。

異世界?転生?ゲーム的な?


周囲を見渡す。


石造りで、通路は三方向…訳のわからない理屈で壁が光っている。

うん、ダンジョンだな。

つまり、ゲームの世界に居るのか。


……いや、待て。


足元に、見覚えのあるケースがある。


「……俺の装備?」


開く。

中身は見慣れすぎた愛銃と予備マガジン。

愛用のククリナイフと…重火器一式のショルダーバッグ。


現役時代そのままだ。


「転生ボーナスにしては趣味が悪いな」


溜息をつきつつ、身体を起こす。


――と、その瞬間。


奥の通路から、低く唸る音。


ズズ……ズン……


「来るな」


反射的に身構える。

思考より先に身体が動いた。


姿を現したのは、巨大な異形。

岩と肉が混ざったような、見た目はダンジョンボス級だな。


「初期エリアにしては重すぎるだろ……」


愚痴りながら、銃を構える。


照準あわせ。

深呼吸二回。

距離、遮蔽物、射線――全部、即座に計算。


――ドン。


一発。

頭部を撃ち抜かれた異形は、そのまま崩れ落ちた。


「……終わり?か…」


次の瞬間。


身体を締め付ける、嫌な感覚。


――呪い、発動。


視界が白く弾け、意識が飛びかける。




――数分後。

めまいが収まり眼を開く。


「…うん?どう、なったんだ?」

声が高い。

やけに若い。

というか――女の声だ。


上体を起こすと、胸元が重い。

視界の端で銀色の髪が揺れた。


「……は?」


手を見る。

小さい。

白い。

革手袋じゃない

爪が綺麗だ。

タコもない。



「……なるほど。若返り系デバフか。まだゲームの世界か?」


銀髪の少女が、落ち着いた声でそう呟いた。


鏡代わりにスマホを起動し、画面を見る。


そこに映るのは――

どう見ても、銀髪の美少女だった。


「まあ、動けるなら問題ない」


結論が早い…そうしないと死ぬ確率の倍率が上がるからだ。


それよりも、問題は生活費だ。


瞬時に対策を練る。


ダンジョンは現代に出現したものらしく、通信も通じるようだ。


なら――


「……配信、するか」


スマホのカメラを起動。

タイトルを入力。


【新人探索者、初ダンジョンです】


配信、開始。





《配信開始》


視聴者数:12 → 48 → 132


《コメント欄》


かわいい

銀髪だ!

新人?

え、重火器?

初期装備じゃなくない?


「どうも。初ダンジョンなので、ゆっくり行きます」

コメントを流し見し、そのまま通路へ。


足音を殺す。


角の手前で一度止まり、ミラー代わりにスマホを差し出す。


《コメント欄》


え?

なんで止まった

索敵?

しゃがみ方が慣れすぎてる


通路の向こう、モンスター二体を索敵。

「二時方向、一体。奥にもう一体」


――バン、バン。


無駄のない二発。



《コメント欄》


!?

エイムやば

クリアリングが完全に特殊部隊

新人じゃないだろwww



「は?これくらい普通ですよね?」

本気で不思議にそうに言う。

ゲームの世界なら当たり前、だろ?



《コメント欄》


普通じゃねぇぞw

JKの動きじゃない

というかJKなのか?

声落ち着きすぎ



コメント欄をまた流し見、JKの意味をスルー。


通路を進みながら、淡々と解説。

「遮蔽物は信用しない方がいいです。角は必ず死角があるので」



《コメント欄》


教本かな?

講習動画始まった

なんでそんな冷静

心拍数見せてほしい


奥で物音を感知した。

「……来ます」


瞬時に伏せる。

跳躍してきた魔物の頭を、空中で撃ち抜く。



《コメント欄》


反射神経どうなってんだ

チート疑惑

運営仕事しろ

新人、だけど手練れ説


「ん? 今、年齢の話しました?」


《コメント欄》


してないしてない

してないです

察しろw



そんなあれこれを流し見しつつ。ボス部屋前。

「じゃあ、今日はここまでにします。続きはまた練習で」



《コメント欄》


練習!?

練習でこれ!?

プロだろ

登録した

次回待機



配信終了。


「……反応、悪くないな」


スマホをしまい、少女は淡々と呟く。


元・最強傭兵ファントムバレット

本人だけが気付いていない。


――その配信が、伝説の始まりだということに。

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