第6話


ドアを開けて部屋に入り、ポールハンガーにショルダーバッグをかける。


寝室に向かい、綺麗に張られたベッドに倒れ込んだ。


「んーもぉーー!」


ベッドに顔を埋め、ご近所に迷惑をかけないよう、溜め込んだ息を吐き出す。

そして、

いつもは聞こえない、呼吸音にそっと耳を澄ます。


手先でそっと拍子をとる。

布団がわずかに鳴る、その軽い音が落ち着く。


『言っちゃった…。』


隠すつもりはない。

けれど、言葉の重さを考えてしまう。


後悔ではないのに、頭に靄がかかる。 

身体が縛られたみたいに、動けない。


『かけるくん…』


目に浮かぶ、彼。


消えそうな声で名前を呼ぶけれど、

その音は静けさに吸い込まれ、すぐに消えた。


ベッドに張り付いた身体を剥がし、ぐるりと寝返りをうつ。


天井が視界に入ると、今日の記憶が流れ出す。


「大好きです。」


私は小説の話をしていたはずなのに、

思いもよらない言葉が、口をついて出てしまった。

だけど自然で、違和感もなかった。


恋愛小説のストーリーを語るのは平気なのに、

「好き」と伝えたことには、息が詰まった。


肌で感じる恋愛小説は、

彼女の胸を、熱く締め付けていた。

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