〜巨大モンスターを狩るゲームの世界に転生した俺、不当に“最弱”の烙印を押されたけど前世の狩猟知識だけで生還し続けたら美少女ハンターに囲まれていた件について〜

鮫島 鱗

第1話

「え……? ここはどこだ……?」


 俺の名前はユウタ、22歳の就活生だ。

 昨日、また面接に落ちたことに凹みやけ酒を飲んでそのまま気を失った。


 だが、目を覚ましてみると周囲には草原が広がっていた。

 辺りには小さな恐竜のような生き物たちがのんびりと草をむしゃむしゃ食っている。


 一見すると、まったく身に覚えのない場所。

 だけど俺には見覚えがあった。


 この地形、この広さ。

 遠くに見える岩の配置まで含めて。


――間違いない。


 ここは、俺が大好きだったゲーム『ワイルドハント』の初期フィールドだ。


 『ワイルドハント』とは、巨大なモンスターを相手に戦う狩猟アクションゲームだ。

 装備が整っておらず操作が未熟な初心者プレイヤーには序盤は地獄で、判断を誤れば簡単にゲームオーバーする。


 そして俺はこのゲームだけは得意だった。


 顔も頭も運動神経も人並み以下でモテたことも当然ないが、このゲームを長年遊び続けてきた分、どうすれば死ぬかやどうすれば生き残れるかだけは知っている。


(う、嘘だろ……まさかあのゲームの世界に転生してしまったのか……!?)


 俺が戸惑っていると次の瞬間、地面が揺れ周囲にいた草食モンスターたちが一斉に逃げ出した。

 足音のする方へ目を向けると、このフィールドではそこそこ強い序盤モンスターが姿を現した。


 初心者が最初に心を折られる相手だ。


 装備が揃っていれば問題ないが、今の全裸に近い俺じゃあ判断を一つ誤れば簡単に死ぬ。


 とにかく俺は必死に走って逃げることにした。


「クソ……キャンプ送りで済めばいいけど……最悪殺されるかもしれないぞ……」


 息が上がり脚が思うように動かなくなる。

 走り続けるためのスタミナはもう残りわずかだった。


(ダメだ……このまま一直線に逃げたらスタミナが先に切れる)


 俺は一瞬だけ走るのをやめ、斜めに進路を変える。突進型のコイツは直線で追わせると一番危ない。


 案の定、背後で地面を抉るような衝撃音が鳴り、突進がわずかに逸れた。


(……よし、今だ)


 だがそれでも、距離はじわじわと詰められていく。


 俺は足元の石につまずき、派手に転んだ。


「うわぁ!!」


 もうダメだ――そう思った、その瞬間。


「危ない!」


 鋭い声と同時に白い影が俺の視界を横切った。


 この世界の、女ハンターのようだ。


 白髪を靡かせ、露出の多い装備に身を包んだその女は迷いなく迫っていたモンスターへ斬りかかる。


 女ハンターの装備を見た瞬間、俺の頭の中で冷静な分析が走った。


(……白い革の軽装、武器は初期強化止まりの日本刀。スキル構成も多分貧弱だろう)


 間違いない、ハンターレベルはせいぜい2。

 だが、このレベルでも立ち回りさえ間違えなければギリギリ勝てる。


「下がって!」


 女ハンターはそう叫ぶと、突進を横にかわし、脚へ斬撃を叩き込んだ。

 動きは荒削りだが立ち回りは悪くない。


(悪くない……だが)


 俺の背中を、嫌な記憶がぞわりと這い上がる。


――思い出してしまった、討伐後に発生するあのイベントを。


(クソ……そうだ……)


 コイツを倒した直後、空が不自然に暗転し、本来この時点では絶対に勝てない超強敵モンスターが乱入してくる。


――その時だった。


 ゴォォォ……ッ


 低く、重たい咆哮。

 空気が震え、草原の奥から腹に直接響いてくる。


 俺は即座に理解した。


(……来る、まだ姿は見えないが奴の咆哮だ)


「早く逃げるぞ!!」

「え!? まだこのモンスターを討伐してないのに!!」


 俺は叫びながら彼女の手を引いた。


が来る!」


 その名前を聞いた瞬間、

 女ハンターの動きが完全に止まった。


「……は!?」


 驚きで目を見開く。


「グ、グラウ=ゼルド……!? そんなモンスターがここに来るわけないじゃない……!」


 だが、再び――


 ゴォォォォ……ッ!!


 さっきよりもはっきりした咆哮。

 距離が一気に縮んだのが分かる。


 同時に草原の奥で木々が不自然に揺れ、大きな影が一瞬だけ横切った。


 女ハンターの顔が青ざめる。


「ちょ……待って……まさか本当に……!?」

「だから早く逃げるぞ!!」


 俺は彼女を引きずるように走り出した。


「戦ったら死ぬ! 今のお前の装備じゃ勝てない相手だ! それくらい自分自身でわかってるだろ!?」

「っ……!」


 彼女は一瞬迷い、そして歯を食いしばって走り出した。


 背後から、また咆哮。


 ゴォォォォォ――ッ!!


 熱を帯びた風が背中を撫で、草原の草が一斉に風に靡く。


 女ハンターは走りながら、震える声で言った。


「……あんた、なんでそんなことまで知ってるのよ……!?」


 答える暇はなかった。


 今はただ――

 生きて逃げ切るしかない。

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