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倫理や道徳や感情はゾーンに置いて枷であり、其から解き放たれる事によって、極地へと至る。だがその代償として、人との関わりは断絶されるだろう。

だから私達は牙を隠して生きるしかないのである。


好きな学問と聞かれて、周りは何と答えるだろう? 国語? 数学? それとも英語? どうにも私は捻れているので、心の中では『哲学』と叫ぶだろう。けれども表面上は周りと馴染む様に『化学』と称することにするだろう。

多くの人は『哲学』と定義した私を珍妙な生き物と定義して、距離を置くか、馬鹿にするから。『哲学なんて、学校の教科にない』そう言って蔑みにかかるから。

其れをされた時『あぁ、お前は何も分かっていない。学校の教科にあるものが学問だとは限らない。何故そこまで階層を下らない。何故そこまで考えない。階層が浅い』と指摘するだろう。

だが相手が其れを認識するとは到底思えない。だから最初から『相手に合わせた』回答を述べておく。まるで子供相手に手加減するように。

果たして其れは『馬鹿にしている』と称される事であろうか?


同居人の鏡花は極めて人に対して友好的な対応に務めているが、本質的なところは極度の人間不信かつ、冷徹なところがある。其れは何も友人の諭羅の影響を受けたからではないだろう。

そんな事をチョコレート菓子を鏡花の口に突っ込みながら思った。

俺からの施しを『好意』と認定したのか、喜んで口を開け、その口の中に受け入れる。

何も考えていないのだろう。幾ら自分と同じ思考回路の人間を求める、選民思想の強い輩とは言え、周りを見下しに掛かる傲慢極まりない天才とは言え、今はただのあどけない犬っころである。

「ベリーヤミーよ。瑠衣たん」

そうか。お前、こういう時に後ろから刺されんだろうな。

「お前、ずっと、年中そうやって生きていたら、今少し気安く生きれると思うぞ」

……思考を放棄し、ただ感情を優先し、当たり障りのない立ち振る舞いをしていたら、そこまで苦しむ事はない。其れをしないから、ただずっと苦しい。

「そうして生きてるよ。裏側では、自分の論理、つまり限りなく正論に近い論理を受け入れず、感情を捨て去る輩を死ぬほど見下してるし、人を炙り出す事に余念はないけど」

「まぁそれで良いだろう」

苦しみながらも、辛くても、知恵や思想を手放す事はきっと出来ないのだろう。

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