第5話 着せ替え人形
高校生という思春期。
女の子たちは忙しい。
恋愛の話題、メイクの流行、休日の服装。
少しの変化が、そのまま自分の価値になる時期だった。
「見て、見て!今日の髪型、可愛くない?」
クラスメイトの凪が、美優に声をかける。
サイドを編み込んだポニーテール。
校則違反にならない範囲で、きちんと計算されたお洒落だった。
「凪ちゃん、可愛い!編み込みって難しくないの?」
周囲の女子たちが集まってくる。
凪の明るさと華やかさが、教室の空気を一段明るくした。
「全然!
お洒落するとさ、テンション上がるじゃん」
屈託なく笑う凪は、誰からも好かれるタイプだった。
ふと、凪が美優のほうを見る。
「ねえ、美優はどんな髪型にしたいとかあるの?
やってあげるよ」
艶のあるセミロングのストレートヘア。
手を加えなくても整っているその髪に、凪は興味津々だった。
「私は……特に、ないかな」
言葉は自然に出た。
嘘ではなかった。
髪型を考えたことが、なかった。
これが似合うよ。
そう言われて、そうしてきただけだった。
誰かに選ばれた形が、
そのまま“正解”だった。
「そっかぁ」
凪はそれ以上踏み込まず、
別の話題に移っていく。
教室のざわめきの中で、美優は一人、考える。
髪型って、なんだろう。
選ぶもの?
変えるもの?
楽しむもの?
そのどれもが、自分の中にはなかった。
胸の奥に、
これまで感じたことのない影が落ちる。
それは痛みでも、不安でもない。
ただ、輪郭のない違和感。
——私には、ない。
その事実だけが、
静かに、美優の中に残っていた。
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