売られたかつて人だった魔道具

「…クボルト。やっぱり、君なんだね。」

「いえ、あの人が自殺したんす。俺のことを追い込みすぎて負い目を感じたんすよ。俺はこの全身の傷で無罪放免って訳っす。」


 それが嘘であることくらい、兄は理解していた。支配されていたからといって、彼らが家族であることは事実なのだ。弟が嘘を吐くときのことくらい理解している。


「それが、お前なんだな…」

「…そうっす。俺はクボルト、魔導工房クラフトワークスのクボルトっす。もし、修理したい魔道具があればウチに寄ってください。それと、これからは魔道具なしじゃ生きられない時代が貴族の間にも始まるっすよ。乗り遅れないようにするっす。」


 兄は去っていく弟に対して一人礼をしていた。朝日が昇り始めて橙色に染まる庭園を、弟が歩いていく。その背中にはどんな思いが刻まれているのか。兄にはわからなかったが、ただ彼が自分の思うことだけを示すのならばそれは、純粋な感謝だった。

 かっこつけて家を出た魔道具にとって、空腹が最後の敵だった。彼の実家から、彼の帰るべき場所までは歩きだと半日かかってしまうほどの距離があった。


(体が重い…別にこんなに改造する必要なかったっす…やっぱ俺、容量悪いっすね…)


バタッ…

 貧民街で倒れたものに対して、貧民たちが容赦をすることはない。彼らはゴミを見る目でこれの周りに集まり、そして全員が目配せをした。

 魔道具が目を覚ました時、そこは覚えのある場所だった。

「ここは…」

「久しぶりだな、クボルト。」

 クボルトには恩人が片手で数えられるほどいる。今、クボルトの前で笑顔でいる人間もその一人だ。

「ヤイガーさん!ど、どうして、え、あれ、俺…?」

「何言ってんだよクボルト、お前はまたウチに戻ってきたんだろ?忘れたか?」

「え…」

 クボルトにはもちろんそんな記憶などなかった。ただ、ヤイガーが恩人であることは確固たる事実だということはわかっていた。

「俺たち『仲間』だよな?」

 頭がくらっとする。


 目を覚ますと、そこは採掘場だった。

「お前らぁ!!手を動かせぇ!!遅ぇぞぉ!!」

 自分に対して怒号を飛ばす彼が自分の『仲間』であることをクボルトは覚えていた。

(カリオさん…流石、あんたは偉くなる器だと思ってたっすよ。さーてと、俺も働かないとっすね。)

 他の人間と同じようにツルハシで石炭を採掘していく。それを自分たちの後ろを走るトロッコに逐一入れて行くのだ。

 周りを見渡してみると、やはりかつての仲間たちがたくさんいた。


「よーし…俺も頑張るっすよぉ!」

**

「……」

「来ないね。」

「別に待ってないしー!」

「お客さん来ないと潰れるよ…?」

「あ…い、いや、お客さんは待ってるけどさ…」

「あらら~?何を待ってないのかな~?」


「朝からくだらないひっかけやってんじゃねぇよ、タスパナ。」

「す、すみません!」


 いつもと変わらない景色に何か一つが足りないというだけ。

 魔導工房クラフトワークス、社長兼工房長ガルド=クラフトは新聞を広げて、コーヒーを嗜んでいた。

「ヤイガーグループか…」

「最近そういう話多いよねー、聞いたこともないところが急に事業を伸ばすってやつ。」

「ああいうのは全部奴隷商売さ。賃金が安ければその分利益は増える。その利益で安い奴隷を買って、どんどん事業を拡大するんだ。」

「……おい、お前ら。これ見ろ。」

「はいー?」

「はい。」

「俺の目が衰えてきたのか?俺にはこいつがクボルトに見えるんだが?」


 そこにはヤイガーグループへのインタビュー記事として「今週のエース」という欄に、エースとして選出された痩せたクボルトの写真があった。


「…見えますね。」

「てか本物でしょー、例えどれだけ痩せても見間違えたりしませんよー」

「俺も噂話で聞いただけなんだが、クボルトの実家が崩壊したらしい…」


「い、いやいや、あいつが奴隷になるなんて…そ、そんな、何があったらそんなことが起こるんですか?!」

「でも、事実ここには載っちゃってるんだし…」


「考えるのは後だ、まずは動く。自分の弟子が奴隷に使われてるなんて、耐えられる訳ないだろ…」


 男は決意した。このヤイガーグループとかいうのを、ぶっ壊すのだと。

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