【実験 AI執筆版】魔女ルーシーの末児達

柴田柴犬

第1話 魔女の来訪と、南木晃の終わり

世界は、二つの理で回っている。  

 表層を覆う物理法則と、その裏にへばりつく魔力という名の混沌。  

 俺、坂城功さかき こう――本名、南木晃なぎ あきらは、物心ついた時からその境界線上に立たされていた。


『……ごめんね、晃。あの子のためなの』


 夢を見る。  

 十年前に俺を施設へ置き去りにした母の、悲痛な表情。  

 そして、その背後で虚ろな目をしていた病弱な妹、真紀葉まきは。  

 俺が近づけば、霊が寄り、妹がそれを執着させる。負の相乗効果シナジー。俺たちは、一緒にいるだけで互いを蝕む『毒』だった。だから俺は捨てられた。家族を守るために、他人になったのだ。


「――辛気臭い顔をしておるのう、朝から」


 不意に、鼓膜を震わせる幼い声が現実に俺を引き戻した。  

 目を開ければ、そこは殺風景な施設の個室――ではなく、一週間前に引っ越したばかりの戸建ての天井だった。  

 視界の端に、フリルの付いた豪奢なドレスを纏った金髪の少女が映り込む。


「……おはよう、ルーシーさん。人の寝顔を覗き込む趣味があったのか?」


「馬鹿を言え。朝食の時間が過ぎておるから起こしに来てやったんじゃ。感謝せよ、我が末裔」


 ルーシー・ウィザース。 御年二三六歳の大魔女にして、俺の遠いご先祖様。そして、俺をこの家へと引き取った張本人。 彼女は小さな手で俺の額をぺちりと叩くと、ニヤリと笑った。


「それとも、まだ夢の続きが見たいか? お主のその『霊を引き寄せる』体質が、妹を殺しかけたあの日の夢を」


「……趣味が悪いぞ、あんた」


「事実じゃからな。だが、安心せい。吾輩が来たからには、その体質も武器に変えてやる」


 彼女はくるりと背を向け、部屋を出ていく。 その背中は小さいが、揺らめく魔力の密度は桁違いだ。 彼女が俺を引き取った理由は二つあるらしい。 一つは、血縁としての情け。

 そしてもう一つは――この国に封印されし『兇魔きょうま』の復活が近づいているからだ。


 俺はベッドから身を起こし、自分の手を見つめる。 この手には、まだ何もない。  だが、ルーシーは言った。俺には『龍気』に通ずる資質があり、それを開花させれば、過去の因縁ごときねじ伏せられると。


「……やってやるさ」


 俺は、家族に捨てられた可哀想な子供、『南木晃』であることをやめた。 これからは『坂城功』として、このふざけた魔女と共に、怪異だらけの日常を生き抜いてやる。 たとえそれが、やがて来る妹との再会や、かつて俺たちが敗北した巨悪との再戦を意味するとしても。


「おーい、功! 早くせんとパンが焦げるぞ! あとレイチェルとかいう娘から着信じゃ!」


「……レイチェル姉さんか。朝から騒がしくなりそうだ」

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