占い師さんに視てもらったり視てもらわなかったり
塩狸
徒然
1
アラサーで独身
ほんの一時
占いに傾倒した頃
私は
“今”
をね
もしくは
“ほんのちょっと未来”
のことを聞きたいのに
正確には
そのね
「結婚できるか」
を聞きたいのに
「40の後半から金運が飛び抜けてる」
「あらぁ羨ましい、あやかりたいくらい金運が伸びるわ」
「お金で人は変わるから、あなたも周りの人にも気をつけなさい」
ってさ
どんな人に視て貰っても
しばらく先の
「お金に恵まれる」
って答えばかりだった
私は
(宝くじでも買えば当たるのかなぁ)
くらいに思ってた
結局
結婚は
知り合いの伝で紹介して貰ったうちの1人と
お互いに少しずつ妥協しなから結婚して
でも子供は出来なくて
それでも夫婦仲は普通だし
こんなもんかなと日々は過ぎ
ほんの一時
占いに傾倒していこともだいぶ昔に感じた頃
もうめでたくもない45の誕生日を過ぎてから
まるで私の誕生日を待っていたかの様に
立て続けに両親が亡くなり
ひとりっ子の私に遺産が入り
それから2年もしないうちに旦那が職場で倒れてそのまま帰らぬ人になり
保険が下りて(心不全と診断された)
更に
相手が100%悪い事故が一度でなく続いて大きなお金が入ったりね
病院のカーテン眺めながら
思い出したの
占い師の人たちの言葉
それで
私が占って貰った占い師さんたちは
何でも視えるわけじゃなくて
なんだろうね
視た人の強い部分?
例えば私なら
理由は抜きにして
とにかく金運が飛び抜けてる何かが視えて
でもそれ以外は見えなかった
ううん
もしかしたら
中には視えていたの人もいるのかもしれない
でも
視えていても
言えるわけもなかったんだ
“身近な人間の死と引き換えに自身の大怪我と引き換えに大金が舞い込む”
なんて
今の私が
占い師に視て貰ったら
何が視えるんだろう
退院しても
何だか寂しいし
ペットでも
飼いたいな
2
断捨離したら2人目妊娠したの
ひとりっ子のつもりだったんだけどね
もうね
生まれた子供が可愛くて可愛くて
夫も2人目に前向きだったからしばらく頑張ったんだけど駄目でさ
独身の友達に溢す愚痴じゃなかったけど
子供の話題からついつい漏らしてしまったら
「んー
“2人目は無理だ”
って、トドメ刺される覚悟でいいなら視える人紹介しようか」
って提案されたの
迷ったけど
「ハッキリさせた方がいいかも」
って思って紹介してもらってね
相手の希望で我が家に来てもらったんだけど
私より全然若い女の人だった
「えー」
ってびっくりしつつソファ勧めたら
その人
部屋の中を無遠慮に見回してから
向かいに座った私を見て来た
気まずくなるほどね
そしたら
その人は
微かに頷いてから
「ええと、お古が嫌なんだそうです」
唐突にそんな事言われた
「へ?」
って間抜けな声出たら
「『お姉ちゃんのお古をたくさん残してる、僕に使うつもりでしょ』
って、言ってます」
お古
確かに
2人目が出来たら使おうって思って使えるものは綺麗にしてクローゼットに残してあるけど
「それが嫌でママのお腹に行きたくないんだって訴えてます。自分のためにきちんと1から揃えて欲しいんだそうです」
「え、ええー……?」
嘘
本当に?
そんな理由で?
女の人は、それ以上何も言わなかった
私はなんかぼんやりしたまま封筒に入れておいたお金渡して
女の人は頭下げて帰って行った
それで私は
その人を見送って足の踵を返すなりクローゼットに直行して
マンションのごみ捨て場を往復
使う予定で取っておいたものを捨てて
翌日の午後からは車でクリーンセンター行って
ベビーベッドだけは同じマンションのママ友に譲った
そしたら
待っていましたと言わんばかりに
もう次の月には
「あれ?」
1人目の時から感じた
身体の違和感
確認したら妊娠してて
秋に無事に生まれてきた子は男の子だった
うん
そうなんだよ
男の子も案外お古とか気にするのね
今も新しいおべべ着て新しいガラガラ振って
新しいベビーベッドから覗き込む私と
姉となる娘を見て
ご機嫌で笑ってる
愛しくて可愛い子
3
ちょっと悩んでることがあって
占いやってるとこに行ってみたの
ホント適当にね
あそこに占いやってるところあったよなー程度で
だからかな
カーテンの向こう側に占い師として座ってたのは凄く若い女の子で
ちょっとね
正直
「あーハズレかも……」
って思ってしまった
それで
「仕事で移動の話がありそうなんです。引っ越しする距離で、移動の話を受けるか転職か迷っています」
と伝えたら
その若い占い師さんは
「え?」
って顔して
「え?」
って返してしまったら
「あ、そうですね
ええっと
移動を受ければわりと出世します、転職すれば新しい出会いがあります」
と、少し宙を浮く埃でも見てるような視線で教えてくれた
なんかさ
誰でも言えそうな誰にでも当てはまりそうな答えでしょ
あーやっぱり失敗したなと思って早々と切り上げようとしたら
「あ、あの。その、頬のほくろ、気になるならとってしまっていいと思います」
って
自分の頬を軽くつついた占い師に
私は
「えっ!?……はっ!?」
今度こそ声を上げて驚いてしまったら
「その、すみません。あなたが鏡や電車の窓に映るご自身の、お顔のほくろをとても気にされてる様な姿が強く視えたので……」
てっきりその相談だと思っていたら
仕事の相談をされて拍子抜けしてしまったと言われた
私は
(わ、この子、ちゃんと視えてるんだ……)
って気付いて
浮かしかけてた腰を下ろして座り直した
言い訳させて
だってさ
医者と坊主は年寄りがいいとか聞くし
占い師も
経験豊富な方がいいんじゃないかとか
勝手に思い込んでたの
でも
うん
そんなの杞憂だった
私が姿勢を整えると
「そのほくろをとることによって、あなたの運が大きく動くことはありません。
でもほくろがあることで、あなたが必要以上にほくろを気にしてしまい、他の事がおざなりになってしまっていたりするので、それならば、とってしまった方がいいと思うんです」
ってギクリとすること言われた
心当たりはある
とても
そして仕事の話は
「転職で出会いがあるのは女性です、長いお付き合いになる方ですけど」
けど?
「その方とはとても縁が強いので、転職を選ばなくても、時期は少し先になりますが、必ず出会えます」
と断言された
へー
じゃあ移動を受け入れようかなと、何だかスッキリしてお金払おうとしたら
もう少し時間が残ってると
切り上げれば休憩できるのに
とても律儀な子
ならばと
ほんのちょっとした
人によっては大したことない悩みだけど
「髪をショートにするか迷ってて」
と髪に触れたら
「春先まで髪は切らない方がいいですよ」
と
またもあっさり断言された
髪も霊気をまとうとか聞くし
運とか霊的な流れの話かと思ったら
「いえ、冬に髪切ると寒さで風邪引きます
髪の保温力舐めちゃいけません」
って普通にライフハック的なアドバイスだった
私は
ホクロを取る予約いれて
髪は春先まで切るの待つことにした
4
「コンビニで
若い男の子の店員さん
全く口を開かないのよ
ボソボソじゃなくて
全くね
唇からして開いてなくて
最近はそういうこともあるかぁと思って
モールの中のね
服屋へ行ったら
すかさず若い女の子の店員さんが寄ってきたのに
目だけ三日月型で唇は真っ直ぐで開かないの
何だか気味悪いわぁとは思ったんだけど
その気味悪い店員さんに纏わり付かれながら服を眺めてもね
そう気に入る服もなくて
「あ、電池買わなきゃ」
ってモールの端っこにある電気屋へ入って
売り物のテレビの前を通り過ぎる時に
映ってるアナウンサーが
唇を閉じてたのよ
映ってる間ずっとよ
そこでやっと
「あら、何かちょっとおかしいわ」
って
もしかして
「おかしいの、私自身なのかしら?」
って気づいたの
それで
「じゃあ、自分の声は?」
「唇は?」
「動いてる?」
「声は聞こえる?」
って声を出してみたけど
聞こえなくてね
何とか聞こえるまで声を出したら
気付いたら顔の皺の深い警備員さんがこちらに駆け寄ってきて
私と警備員さんを遠巻きにしている電気屋の店員とお客さんたちがいたの
もうその時には
私は自分が声を出してるのか出してないのかすら解らなくて
警備員さんたちの事務所?みたいなところに連れて行かれて
あれよあれよとね
生まれて初めて救急車乗って
救急隊員の人たちの声も何も聞こえなくて
意識だけはしっかりあるから
救急車なんて申し訳ないと恐縮してたの
でもね
搬送された病院の先生も看護師さんの唇も動いてなくて
何も聞こえなくて
10日ね
それでも10日間で
なんだったかな
筆談で
ええと何か難しい言葉で
簡単にいうとストレスね
そう
簡単な言葉だけど死に直結するあれね
なんとかかんとか症
それをね
病気ですよって
自分でやっと理解できるくらいになったの
私
当時ね
旦那の親と同居だったんだけど
その時3年目でね
子供も授からなくて
きっとそれもあったのね
気付いたら
自分でも解らないうちに壊れてたのよ私
それで旦那は
私よりも自分の親を選んでね
まぁそれは仕方ないわよ
病院で離婚届見せられて
旦那が帰ったあとに
「そっかぁ……」
って声が出てね
久しぶりに
自分でも自分の声が聞こえたのよ
ーーー
彼氏にプロポーズされて
マンション買えるまで、せめて頭金が貯まるまでは俺の実家で同居すればいいよって持ち掛けられて
返事は保留にして
私は
一人暮らしの部屋でなくて
手土産持って実家帰ったら
叔母さんが遊びに来てた
手土産のドーナツ食べて
叔母さんが
今日は車で来てるから送るわよって
お言葉に甘えて
昔から可愛がってくれる叔母さんだから
彼に同居の条件付きでプロポーズされたと話したら
帰ってきたのがそんな叔母さんの話だった
そういえば叔母さんはバツイチだった
独身謳歌してるからすっかり忘れてた
「勿論ね
全部の人が当てはまる訳じゃないわよ
上手くやっている人たちもたくさんいるわ
でも私たち
少しでも血は繋がってるでしょ
ほんのり似たタイプの人を旦那に選んでもおかしくないから」
ってね
うん
叔母さんの話
わりと酷い話だよね
うん
そうなの
叔母さんはね
遠回しに
やめとけ
って言ってくれてる
でも
叔母さんは
私の人生を背負えるわけじゃないし
責任も取れない
だから
やめときなさい
と強くは言えない
でも
だからこそ
自分の傷口を開きながら教えてくれたんだ
忠告をしてくれたんだ
私の幸せを願って
同じ轍を踏まないように
私は
叔母さんが
自身の傷を抉ってくれたお陰で
同居は嫌だとプロポーズ断ったらね
彼氏ね
その場で舌打ちしたんだよ
今まで舌打ちなんて一度もなくて
品のない動作や仕草もしない人だったのに
そこが好きだったのに
地面を靴底で蹴ったり
別人みたいにイライラして怖かった
彼氏の知らない顔を初めて見た
2日後に
「同居はしなくていいから」
って連絡来たけど
私もそこまで
「扱い易い女」
ではなくて
プロポーズ断った時点で別れたつもりだったって言ったら
どこに情報を流されたのか
スマホに
しばらくの間
知らない電話番号や詐欺紛いの営業電話とか凄い掛かってきたけど
それだけで済んだ
叔母さんには
美味しいランチご馳走した
5
私
ホント
ずーっと昔から
物心付いてから
仲良くなっても
数年もするとね
段々
みんな離れていってしまう
友人も
彼氏も
性格に難があるのか
あるんだろうなと思いつつ
「何がいけないんでしょう」
とね
さすがに辛くなったのは
とっくに成人越えた辺り
そ
お察しの通り
数人目の彼氏にやんわりとフラれた後
一体何が駄目なのか
その日
その占い師に訊ねたのはすでに5人目
安くないお金払ったり
自称占い師のジジイにナンパまがいのことされて
やり場のない怒りが沸いたり
これで最後にしようと決めて
人を頼って予約した占い師の人
対面するなり
「あなた生粋のテイカー、奪う方よ」
「あら無自覚ないのね」
「凄く強いものね」
「でも自覚してもね、それは治らないわ」
「あなたの身体は女の肉体、それと同じ」
「例え男になろうと胸は削ぎ落とせても性器は生やせない、根本は覆せない」
「そうね、結婚したいなら生粋のギバー、ドMを探すしかないわね」
「でもあなた、生命力ごと奪うから、あなたの側にいたら早死にするわよ」
あぁ
心当たりはありすぎる
別れて欲しいと言ってきた先日の彼氏も
振る側の癖に凄い消耗した顔と声をしていた
「ええとご両親は、……あら、まだご存命ね」
凄い意外そうな顔された
なんで解るんだろ
でも中学から寮に入れられていた
今も
年に2回会うか会わないかですと伝えれば
「あらそうなのね、ご両親はとても賢明な判断をしているわ」
賢明
「“私のせいで早死にした”なんて思わせてくる親よりましでしょ」
あぁ
そうなのか
そうだったのか
両親は
知っていたのか
娘が
身近な人間の生命力ごと奪うテイカー体質だと
むしろ
“知らないわけがない”
ならば
この占い師の言う通り
私は結婚相手にドMを探すしかないの?
精神的とは言えドMかぁ
ちょっとなぁ
しかも早死にされるのかとため息が出たら
「あなたのテイカー気質を減らす可能性は0ではないし、まぁないわけじゃないのよ」
と、また曖昧なやわやわした物言いするよ
そんな占い師さんは
私を改めて見つめてから
「子供を生むことね」
子供
「あなたの厄の半分は持っていってくれる」
半分
そして厄
「ほら、デキ、ううん、おめでた婚よ、さっさとおめでた婚に持ち込めばいいのよ」
今デキ婚言い掛けたな
「今は子持ちは色々と優遇されるし、子は国の宝よ」
メリットの分母が急に個人から大雑把は国規模になった
わざとらしく目は逸らしてくるし
もう
聞かなくても解る
勧めたくないんですね
「そうよ、あなたの力があまりに強すぎてね、もう才能を越えてるわ」
嬉しくない
「半分に減って普通のテイカー程度
でも
あなたはテイカーの癖に人がいいし世間体を気にするタイプだから
子供を生んでもね
そう易々と離婚もしないしできないし子供も手放さないし手放せない」
ええと
今聞き流せないディスりが入ってた気がする
でも
その
私と子供
テイカー同士が奪い合う様なことはないのか
「勿論あるわよ、そもそもマイナス同士で猛反発するでしょうね」
私の目の前の占い師曰く
親子の相性が最悪すぎて互いに幸せになれないと
「親のあなたの方が強いから尚更よ」
うーん
それはもう
ならば私は
人並みの幸せを望めないのか
「そんなことないわ、ただ強くなればいいのよ、開き直りなさい」
そんな
「ほら、悲劇のヒロイン気取らないの。テイカーの癖に、一番腹立つタイプよ」
えーそんなこと言う?
「そもそも人並みの幸せ=結婚出産
が贅沢で望みすぎなのよ
あなただけでなくてね」
わりと多くの女性が普通に夢見る事だと思うけど
それに
それなら
あなたは
「ええ?あたし?結婚してるだろうって?」
してそう
2~3歳年下の旦那を尻に敷いてそうなイメージ
もしくはバツイチ
子供は男の子で中高生くらい?
そんな感じ
そう予想したけど
「あたしはほら、あれだから」
あれ
「アセクシャルなのよ」
アセクシャル?
なんだっけ?
聞いたことある単語
「同性も異性も好きにもなれなきゃ性欲もなくてね」
え?
「ほらさ
若い頃は人並みに悩んだのよ
これでも
カウンセリングに行ったりね
試しに付き合ったみたり
男も女もよ
自分のことが何にも解ってなくて知りたかったのね
でももうホント
“試しに”
なんてね
今でも相手には申し訳ないことしたと思ってるわ」
……
「解った?
人並みの幸せを掴めない女がここにもいるのよ
なーんも珍しくないの
あんたも
もうね
知ったからには開き直りなさい
あなた自身が
酷いテイカーなことを認めて
あなた自身を乗りこなすのよ」
私は
初めから自分で決めていた様に
占い師に頼るのはこの5人目の占い師で最後にした
私は
どうやら他人には
“人の形をした災厄”
でしかないけど
自分自身の能力としたら
“力が強すぎるテイカー”
なのね
たまにでもなくいる
調子に乗って早々と命を落とすタイプの人間も
きっと私の様なテイカー気質なんだろう
なるほど
だから
占い師曰く
乗りこなせと
自分の人生を
ままならないこの性(さが)を
死なない程度に
うまく舵を切って
のらりくらり
のらりくらりと
今日も
明日も
占い師さんに視てもらったり視てもらわなかったり 塩狸 @momonotalutogasuki
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