スパイ任務としての手紙作成と、兄から届く西側の贅沢品という対比が鮮烈で、冷戦下の緊張と個人の感情が見事に絡み合っています。
特にナイロンのストッキングやシルクタフタの描写は圧巻で、物質そのものがイデオロギーの象徴として立ち上がる点に強く引き込まれました。
西側資本主義の洗練と東側の矜持のはざまで揺れるアレクセイとエリザベートの心情が、繊細かつ重層的に描かれています。
ドレス制作の工程を丹念に追う描写は、創作の喜びと職人の誇りを鮮やかに浮かび上がらせ、物語に確かな熱を与えています。
政治と愛、国家と美がせめぎ合う中で、深紅のドレスが一つの宣言となる構図に、歴史小説としての厚みと魅力を感じました。