国家に借金を踏み倒されて銀行が潰れたので、種で経済滅ぼします
@Ika300
第1話 銀行が吹き飛びました
首都アルデンヌを覆う雪は、今年ことさらに重く、そして冷たかった。それは、ユリウス・ライヒマンの心臓を永遠に凍てつかせた、あの日の出来事を象徴しているかのようだった。
ライヒマン銀行。王国の最古の血統に匹敵する歴史を持ち、その信用が王国の経済を支えてきた巨大な石造りの砦は、今、外部の群衆の怒号と、内部の冷たい静寂に包まれていた。
「お父様、まだ手はあります。ダブルスのメディ家、北方のボンザ同盟。彼らのネットワークを動かせば、この国の愚行による信用失墜を、一時的にでも肩代わりできるはずです」
18歳のユリウスは、冷静を装いながら、父親に矢継ぎ早に策を提案した。彼は、幼少の頃から数字と世界の金融秩序を叩き込まれてきた、生粋の天才だった。父テオドールも、この息子の能力を誰よりも信じていた。
しかし、父は静かに首を振った。
「ユリウスよ。お前は数字の動きを知っている。だが、国の動きの裏側にある人の心を知らねばならない」
テオドールは、国王が発布した**『戦時非常事態宣言』**の布告文を指差した。それは、戦争の泥沼化によって膨れ上がった王室の莫大な負債を、国内外の債権者、すなわちライヒマン銀行からの融資を一方的に帳消しにするという、非道の宣告だった。
「王国は、もはや貨幣という幻影に頼れなくなったのだ。戦争が長引いた結果だ。食料を求め、農村から強制的に奪ったんだろう。幻を捨てて実体を奪う。これが、王国の選んだ道だ」
父の言葉は、ユリウスの胸に深く突き刺さった。貨幣とは、人々がそれを信用すると決めたからこそ価値を持つ、薄い紙切れだ。その信用を、王室自らが踏みにじった。
王国の心臓であるライヒマン銀行は、その日のうちに崩壊した。顧客たちの財産は灰燼に帰し、長年築き上げた父の信用は、王室の強欲によって無価値とされた。テオドールは、その屈辱に耐えきれず、自ら命を絶った。
父の血と、窓の外で響く民衆の悲鳴。
ユリウスの心の中で、復讐の炎は燃え上がらなかった。代わりに、それは冷たく凝固し、未来の計画のための土台となった。
ユリウスは、父の亡骸に寄り添うように跪く。
「父上。私が幻影を悉く破壊しましょう。貨幣以外のものにすり替えてやる....実体のさらに根源...全て種に!」
ユリウス・ライヒマンは、すべてを失ったその日、王国の命の根源である種子を支配し、国そのものの未来をゼロに戻すことを、雪の下で冷たく誓った。
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