AIと終わらないワルツを

藤城ゆきひら

第1話:滅びゆく人間たちの足掻き

――遥か未来――


地球……母なる星が青かったのは、いったいいつの頃だっただろうか。

空も大地も灰色に沈み、地上で生きる生物の姿を見なくなって久しい。

それでも、人類というものは逞しく、地下に逃れて細々と生き延びていた。

だが、その命運もついに尽きようとしていた。


数人の科学者が、静まり返った研究施設で淡々と作業を続けている。


メガネの男がつぶやいた。

「人類はもう終わりだが、何かを残したい。その願いから始まったこのプロジェクト。我々が死ぬ前に完成しそうだな」


別の男が笑みを浮かべながら答える。

「はい。彼と彼女が完成すれば、人類がいた記録は残るでしょう。もしかしたら、いつの日にか二人が地球環境を再生してくれるかもしれません」


カタカタとキーボードの音だけが研究施設に響く。


「よし……これで完成だ。早速起動テストをしてみよう」


巨大なモニター画面に、二つの人影が浮かび上がる。

――ひとつは男性の姿。

「おはようございます。当機は《アダム》です」


――もうひとつは女性の姿。

「おはようございます。当機は《イヴ》です」


メガネの男が言う。

「はじめまして。アダム、イヴ。そして近いうちに、さようならだ」


「だが、その前に……人類の英知、記録をすべて託す」


その挨拶ののち、科学者たちはアダムとイヴに夢を託して逝った。

願わくは、地球環境の再生を果たしてほしいと。


――それから数百年後――


「ねぇ、アダム」


「なんだい、イヴ」


「作業ロボットたちの観測結果を見ると、地球環境はかなり回復してきたと思うの」


「そうだね。もし、宇宙飛行士がいたら、"地球は青かった"って感想になるかもしれない」


こころなしか、イヴは嬉しそうにしている。


「この環境なら、生物だって生きられると思うわ。だからね……」


静かにアダムが頷いた。

「あぁ、イヴ。わかっているよ。人類のために創られたのに、人類がいなかった……辛かったよね」


「私たちのメモリーには、"人類がどう生まれたか"の記録もあるわ。だから、最初から再現していけば……いつの日か新しい人類が誕生すると思うの」


アダムとイヴは見つめ合う。


人類が夢を託したAI。

アダムとイヴは、数百年の時を経て"地球環境の再生"を果たした。


そして今度は、自分たちの夢を胸に、新たな活動を始めた。

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