第3章 模倣

二度目の脱皮を終えてから、ハルの動きにわずかな柔らかさが出てきた。


ある日、帰宅するとクローゼットの扉がわずかに開いていた。

中にハルがいた。

暗い空間の中で、何かを手にしている。


古いカツラだった。

高校の文化祭で使ったまま忘れていたもの。


ハルはそれを両手で持ち、じっと見つめていた。

髪という概念を理解しているとは思えない。

ただ、僕の部屋にある“僕の形に近いもの”を探し当てたのだろう。


何度か位置を間違えながら、ハルはカツラを頭に乗せた。

鏡の前に立ち、自分の姿を見つめる。


髪があるというだけで、輪郭が急に“人間の形”に近づいた。


その夜、ハルは鏡の前に立ち続けていた。

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