第6話
私は帰路であかりの言葉を思い出していた。
幼馴染だからこそ、知ってる。
それは中学生の時。
「ねぇ、律!あの道通らない方がいいよ…」
「え?なんで?近道になるからいいと思って」
「確かに近道だけどさ…危ないよ」
あかりは俯く。
何かあったことは明白だ。
「あのね。あそこで。知らない人に声をかけられたの。すっごく怖かった。今考えたら不審者だとは思うんだけど…」
「…そっか。それ親には言った?」
「言ってないよ。だって、本当は川沿いは危ないから通るなって言われてたんだもん。でも近道だって知ってたから…通った」
「うーん…」
適切な返事が見つけられなかった。でもあかりはもう二度と通らないのだろう、と思った。何があったか深くは聞かなかった。人の傷を抉るようなことはしたくない。ましてや、相手はあかりだ。
「しかも、あそこって街灯少ないし、日が暮れると結構暗いじゃん…もう怖いから二度と通らない」
「…んー、分かった」
本当にあかりは何かない限りは絶対に通らないんだろう、と思った。あかりは頑固だった。それは嫌な意味じゃない。昔からなのだ。
私は自然とその近道に足を踏み入れていた。川沿いの道。昔よりかは街灯は多くなった。それでも、街灯は薄暗いし、少なくてなんとなく心細い。
風が強い。
コト、と石が転ぶ音が聞こえた。川面は黒くなって見えない。
全部の風景が不気味で私は不安になる。
(あかりは…ここで…)
ふと考えてしまい、足早に帰宅した。
「おかえり。律、大丈夫?最近眠れてる?」
母さんが心配そうに声をかけてくる。確かに最近、薬の量が増えたし、それでもうまく眠れない。
「大丈夫だよ。ご飯食べる」
そう言っていつも通りご飯を食べる。自室に戻るとふと、机の端に飾ってあるキーホルダーがやけに目につく。
それはあかりとのお揃いだったキーホルダーだ。
(このキャラ、あかりも私も好きで、1年の時に休日に雑貨屋で見つけて…お揃い!って言って嬉しそうにあかりがくれたんだっけ。)
そして今、2年になったあかりの鞄には、絢斗くんとお揃いの新しいキーホルダーがついている。ほんの少し、胸の奥のほうが痛む。
翌日のクラスも普段通りだ。
落ち着かせるための服薬はかかせない。それでもどうしても不安が大きい気がする。意識を逸らしたくて高校に入ってから好きになって何度も読み返している馴染みの小説を開く。ページをめくる音だけが、少しだけ現実から私を隔ててくれる。
佐野先生が朝のHRで絢斗くんに言った。
鈴木の横に座ってくれ、とあくまで連絡事項のように。
確かに絢斗くんは一人席で余っていたから不自然ではない。はい、と言いながら絢斗くんはなんとなくぎこちない感じで私の隣に座る。
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