SST2
渋谷かな
第1話 村人Z
「ギャアアアアアアー!」
最下層のエリアℤの人々が虐殺され、火の海の中で燃やされていく。
「やめろ! やめるんだ!」
努力しても、正しくても、報われないという現実を日常で浴び続けている。
「これは王命だ!」
権力者の気分が、弱い者を消そうとする。
「おまえたち底辺の落ちこぼれには人権がないんだよ! ワッハッハー!」
弱者は、信仰にも守られていない。失敗しても誰も覚えてくれない。負けることすら許されない存在。
「俺は勇者になる! 勇者になって、暴君を倒すんだ!」
落ちこぼれ。人権なし。ゴミ扱い。もちろん、名前もない。
「Zの分際で生意気だぞ! やっちまえ!」
人は強者には媚び、自分より弱い者は許さない。
「こんな権力者に作られた社会に負けるもんか! 諦めない! 絶対に諦めないぞ! 俺は、みんなが笑って幸せに過ごせる世界を作って見せる!」
奇跡的な下克上「私たちにもできるかも」という強い希望を生み、求めているのは強さではなく尊厳の回復。
数か月前。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・。」
光の国スターシア。
「おらー! サボるな!」
弱者に鞭を打つ看守たち。
「ギャア・・・・・・。」
死ぬまで働かされる弱者には、人権や名前はない。
「働いて! 働いて! 働いて! 働いて! 働いて! ・・・・・・死ね!」
抵抗する気持ちを奪い、沸き上がらせないまで、徹底的にしごかれる。
「夢も希望を持つな! おまえたちは底辺のゴミだ! ワッハッハー!」
光の国の最下層。エリアZ。別名、ジャンクZ。
(どうして、この世界は地獄なんだ!?)
今の人間が立っている場所から物語を始まる。
「よし! 飯の時間だ! 喜べ! パンの配給だ!」
仕事の時間が終わり、ご飯の時間である。
「・・・・・・。」
誰も喜ばない。代わりに緊張感がある。
「今日のパンは・・・・・・10人分だ!」
エリアZのボスZ。こいつにも名前はない。ただエリアZの管理権はある。
「うおおおおおおー!」
エリアZの約100人以上の住民が奪い合う。
「どけ! 俺のパンだ!」
「おまえこそ! 高齢者を敬え!」
「ひでぶ!?」
エリアZの住民は、ゴミの様に捨てられた高齢者が多い。若者は、犯罪者や貧しい抵抗力の無い者が強制連行で連れてこられる。
「面白い! 生きるのに必死なゴミどもめ! ワッハッハー!」
エリアZのボスZは、人が人ではなく、生きるためにもがいている姿を楽しんでいた。
「・・・・・・。」
しかし、エリアZの住民たちは暴動を起こせない。階級社会では、上の階級、管理者に歯向かうことは、死を意味する。
「ネズミでも捕まえるか・・・・・・。」
エリアZの食料は、ネズミなどの野良の動物、捨てられたゴミの中から、身の付いた肉の欠片などの食料を探すしかない。
パラパラ。
その時、空から雨が降ってくる。
「雨だ! 恵みの雨だ! イヤッホー!」
エリアZに歓喜の声が上がる。なぜなら水はドブの水、ゴミの水である。雨が降った時だけ、大気の不純物を含む、きれいな水を飲むことができるのだ。
(辛い、辛さしかない・・・・・・。)
エリアZ。ゴミ捨て場に送られた人間は、ホームレスの様な過酷な生活を送らなければならなかった。
(この世界に神はいるのか? いたら、神よ! 我を救いたまえ!)
横たわるのはゴミになった死体の山。頭蓋骨や体の骨も転がっていて、墓はない。
ある日、事件が起こった。
「喜べ! ゴミども! 今日はパンが100個だ! 食え! 食え! 食え!」
奇跡が起こった。エリアZに、パンが人数分配給されたのだ。
「やったー!!!!!!」
エリアZの人々は歓喜した。事件1。
「ん?」
少年が自分のパンを食べようとすると、お腹を空かせた子供が見つめてくる。
「・・・・・・食べる?」
少年は、自分の分のパンを差し出す。
「ありがとう!」
子供は喜んでパンを受け取り食べ始める。
「良かったね。」
弱者には、権力者にはない、他人を思いやる優しい心があった。
「うっ!?」
いきなり子供が口から泡を吹いて苦しみ地面に倒れ込む。
「どうした!? 大丈夫か!?」
少年は心配して、倒れた子供に近寄る。
「こ、これは!? 毒!? そんな!?」
配給されたパンには・・・・・・毒が入っていた。事件2。
「ギャアアアアアアー!」
「く、苦しい!? み、水!?」
歓喜のパンを食べて、地獄に落とされる人々。
「苦しめ。苦しめ。おまえたちが死んでも代わりはいくらでもいるのだ! ワッハッハー!」
エリアZに見慣れない、男がいた。
「ポイズン様。これで獲物は動けません。どうぞ、お好きなように。」
男の名前は、ポイズン。
「ボスZ。ゴミ臭い最下層も飽きただろう。ゲームのお礼だ。おまえの階級を上げてやろう。」
「ありがとうございます! さすが毒の騎士ポイズン様だ! どこまでもお供します!」
ポイズンは、光の国ステラの上流階級の騎士だった。
「いでよ! 俺の鎧!」
カードから、毒属性の鎧が飛び出し、ポイズンの体に装着されていく。
「いくぞ! 皆の者! ゴミ狩りだ!」
「おおー!!!!!!」
これがゲームだった。事件3。
「おら! 死ね!」
エリアZの大量虐殺が始まった。
「キャアアアアアアー!」
毒のパンを食べて動けない、逃げれない人々を容赦なく殺していく。
「・・・・・・。」
階級社会では、自分よりも上の者の言うことに従わなければいけないので、兵士は無言で人々を切り殺していく。
「生意気なスコーピオンにムカついていたストレスを発散させてもらうぜ!」
「た、助けて!? ギャアアアアアアー!」
グサッ! 毒に生きる苦しみを味会わされ、毒の兵士たちに命も奪われていく。
「はあ! はあ! はあ!」
(これのどこが光の国の騎士なんだ!? これがステラ騎士のやることか!?)
パンを食べなかった少年は必死に逃げる。
ピキーン!
(建物の中なら!)
少年は崩れかけの倉庫の中に逃げ込んだ。
「ふ~う。ここなら大丈夫だ。こんなボロ屋を探しに来る暇人はいないだろう。はあ・・・・・・はあ・・・・・・。」
少年は、建物の物陰に隠れ息を潜めた。
バタン!
しかし、剣を持った毒騎士団の兵士が獲物を探しにやってくる。
(クソッ!? 神のお目こぼしはなしか!? 俺はこんな所で死ぬのか!? 俺は何のために生まれたんだ!? 俺は存在するだけで罪だというのか!?)
少年は、自分の生まれたことを悔やんだ。
「見つけた。ニコッ!」
兵士に少年は見つかった。
「は、はっ!? うわあ!?」
少年は必死で逃げようとするが追いつめられる。
フー。
少年が暴れてぶつかり逃げたおかげで、埃をかぶっていたカードが地面に落ちた。
「死ね! ウジ虫!」
兵士が笑顔で剣を振りあげる。
「やめろ!? やめてくれ!? なっ? なっ?」
(嫌だ!? 死にたくない!? 俺はまだ何もやってない!? 誰か!? 助けてくれ!? この世界に勇者はいないのか!?)
力なき少年は他人に救済を求めた。しかし自分が生き残るのに必死で、誰も助けてくれない。
ピカーン!
「ま、眩しい!?」
地面に落ちたカードが、いきなり光り神々しく輝く。
「呼んだか?」
カードから光の騎士が現れる。事件4。
「私が勇者だ!」
棹から光の剣を抜き、一閃で毒兵士を斬り捨てる。
「・・・・・・。」
斬撃の速さに毒兵士は声をあげることもできずに死んだ。
「ば、ば、化け物!?」
光の騎士を見た少年の素直な感想だ。
「失礼な。私を呼んだのはおまえだろうが?」
「お、俺が呼んだ?」
「私がリクエストに答えて現れた、勇者だ。ニッ!」
「勇者!?」
光の騎士の正体は、勇者だった。
「そうだ。私は初代女王、ステラ・ソラリア様にお仕えした光の騎士ブレイブである。」
「ええー!? 建国の母!? ソラリア女王の騎士!?」
「やっと私の偉大さが分かったか。ワッハッハー!」
ブレイブは、只者ではなった。
「で、そんな偉大な騎士様が、なぜにカードでゴミ捨て場に?」
ギクッ!?
「そ、それは・・・・・・ステラ女王様が亡くなった後、私は悪い権力者どもに、カードに封印されて、ゴミと一緒に捨てられたのだ。」
ブレイブの悲しき過去。
ピキーン!
「ステラ様には、二人の王子様がいた! セレスティン様とエリオス様はどうなった!?」
「何を言っている? ステラ女王の王子は一人だろうが。この悪政を行っている、セレスティンじゃないか?」
「なんだと!? 王子は二人だ!? いったい!? どうなっているんだ!?」
カードの封印から解かれた勇者ブレイブは知識が欠落していた。
「そんなことよりもだ!? 兵士を殺してどうするんだ!? 今のステラ国は階級社会なんだぞ!? これじゃあ、本当にエリアZの人々は皆殺しにされてしまう!?」
夢も希望もない階級社会。
「おまえ、名前は?」
「名前はない。底辺で落ちこぼれには、人権も名前もないんだよ。」
個性を否定された現代の自己肯定感の低さへの共感。
「名乗ればいいじゃないか? 自由に好き勝手、自分の名前を。」
「えっ? おまえ何を言っているんだよ!? 最下層の人間に名前を名乗れる権利はないんだよ!?」
「それは、おまえが勝手に決めているだけだろ? 私の名前はブレイブ。最下層にいるが私は自分の名前を名乗っているぞ。」
おどおどしている少年と、毅然として普通の勇者ブレイブ。
「ダメだって、決めているのは、おまえだろ?」
グサッ!
「し、仕方がないじゃないか!? 俺は最下層の人間なんだから!? 何をやっても成功しないんだ!? こんな生活から抜け出せるはずがない!? 世の中や生まれが悪いんだ!?」
努力が報われない時代。現代社会の格差と閉塞感。
「おまえの話を聞いていると、言い訳や文句ばっかりだ。そんなことを言う暇があったら、次に自分が何をするかを考えろ。」
「仕方がないだろ!? いじめられて、暴力を振るわれて、従わないと殺されるんだぞ!? おまえに俺の気持ちが分かるものか!」
社会の理不尽。日常生活における上司や権力からの理不尽な抑圧。
「情けない奴だ。意気地なしめ。何かを変えたければ、自分で考えるんだな。」
勇者ブレイブは少年の態度に愛想を尽かした。
「悪いが、私は長い間カードに封印されていて、完全体ではない。当分の間は、おまえのお世話にならせてもらう。」
ピカーン!
そういうと勇者のカードは光り輝き、少年の体の中に入っていった。
「か、カードが俺の体の中に入った!?」
あり得ない出来事に衝撃を受ける少年。
「そ、そうだ!? 兵士の死体を隠さなくっちゃ!? バレたら俺は殺される!?」
少年は、兵士の死体を瓦礫の下敷きにした。
翌日から・・・・・・。
(考えたこともなかった。)
少年は、勇者ブレイブと出会ったことによって、何かが変わる。
(俺は、なぜ生きているんだ?)
(どうして自分の名前を付けないんだ?)
(どうして? 奴隷の様に働かされる?)
(今の人生は、親の性か?)
(・・・・・・。)
(・・・・・・。)
(いや、違う。)
(今の人生は自分が選んだんだ。)
少年は、人生に気づき、答えにたどり着いてしまった。
(今の生活は、おかしいんだ!)
生きながら死人ではなく、自分で考え、自分の意思を持つ、一人の人間の誕生である。
とある、楽園。
「おや? 記録の書に、今までなかった文字が刻まれていきますね?」
空気は住み、水は透き通り、花は咲き、小鳥がさえずり、一切の曇りはない、正に、この世の楽園。
「いいでしょう。私を楽しませることができるか、見てあげましょう。悩み、苦しみ、あがいてください。」
優雅にティーカップでお茶を飲む人物がいた。
「私を楽しませてください。」
その人物は傍観者だった。
SST2 渋谷かな @yahoogle
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