猛暑の中、買取屋の八代が訪れたのは静謐なる日本家屋。
そこで目にしたのは依頼主である女性の母親が喉から大量の「種」を吐き出すという異様な光景だった。
本作の見どころは『視覚的な美しさと生理的な嫌悪感』の鮮烈な対比です。
具体的には悍ましい苗床から咲き誇る花々の美しさとその根底にあるドロドロとした人間の怨恨であり、相反するそれらを繊細かつ絶妙に描き切った作者の筆致には脱帽するしかありません。
また凄惨な場であるはずの蔵の中がどこか聖域のように感じられるのはひとえに卓越した描写によるもので、読者は脳内に禍々しくも鮮やかな情景を焼き付けられてしまうでしょう。
「ニドラ(眠り)」の名を冠する組織が扱うのは人間のエゴが醸造し続ける悍ましい膿か、それともこの世の涯の救いなのか。
文学的でありながら、ホラーとしても秀逸なこの作品をみなさま、ぜひぜひお楽しみくださいませ。