第38話 問われたのは、力ではなかった
問われたのは、力ではなかった
1
世界は、答えを要求する形を整えた
第二の試金石事件の翌日。
世界は、驚くほど素早く“形式”を作った。
大学からは、公式声明。
「本学は、
当該学生に対し
特別な権限や役割を
付与する予定はありません」
「ただし、
学生の安全と社会的影響を踏まえ、
本人の意思を
確認する場を設けます」
世間は、
「説明責任」という言葉を振りかざす。
観測者は、
一文だけを送ってきた。
「あなたの立場を、
明確にしてください」
立場。
能力ではない。
**“どう存在するか”**を、
世界は問うてきていた。
2
逃げ場は、もう作られない
由衣が、静かに言った。
「……
もう、
交渉じゃないね」
「ああ」
「宣言だ」
これ以上、
非公開では済まない。
だが同時に、
これ以上
暴露を求められるわけでもない。
世界が欲しいのは、
理解できる形だった。
3
主人公は、言葉を選び直す
能力を説明すれば、
管理される
奪われる
再現を求められる
否定すれば、
嘘になる
守れなかった人が出る
これまでの行動が破綻する
残された選択肢は、
一つしかない。
能力を語らず、
行動の原則だけを語る。
4
公的な場、最後の席
場所は、
大学の中立的な会議室。
配信はない。
記者はいる。
観測者もいる。
だが、
“尋問”ではない。
ただの、
確認の場だ。
司会が言う。
「あなたは、
自分を
どう位置づけますか」
5
主人公の第一声
俺は、
深く息を吸った。
そして、
初めて
はっきり言った。
「僕は、
何かを証明する立場ではありません」
会場が、
静まる。
6
能力の話を、しない
「僕が
特別な力を
持っているかどうか」
「それを
ここで話すつもりはありません」
誰も、
止めない。
誰も、
遮らない。
世界は、
続きを待っている。
7
主人公の定義
「僕が
ここで言えるのは」
「自分が
どう行動してきたか
だけです」
「危険だと思った時、
どう判断したか」
「使える選択肢の中で、
何を選んだか」
能力ではなく、
判断。
それが、
話題の軸になる。
8
立場の宣言
「だから」
俺は、
言葉を区切る。
「僕は、
管理される対象にも」
「特別扱いされる存在にも」
「社会を守る
装置にも
なりません」
「一人の人間として
判断し、
責任を持つだけです」
その瞬間、
空気が変わった。
9
世界の反応
記者は、
拍子抜けした顔をする。
観測者は、
表情を読ませない。
大学関係者は、
安堵に近い息を吐く。
誰もが、
“答え”を期待していた。
だが出てきたのは、
立場表明だった。
10
観測者の確認
観測者が、
最後に聞く。
「……
今後も、
同じ判断基準で
行動しますか」
俺は、
即答しなかった。
一拍。
「その時の状況と、
自分が守れる範囲で
考えます」
それ以上でも、
それ以下でもない。
11
世界は、受け取るしかなかった
それ以上、
問えることはなかった。
能力を聞けない。
否定もできない。
だが、
立場は明確だ。
管理も拒否
特権も拒否
無責任でもない
世界は、
扱いに困る存在を
受け入れるしかなかった。
章ラスト
名前のない立場
会見は、
短く終わった。
ニュースの見出しは、
どれも曖昧だ。
「学生、
特別な立場を否定」
「能力の有無には
言及せず」
「判断は
個人の責任で」
だが、
それでいい。
由衣が、
小さく言う。
「……
答えたね」
「ああ」
「能力の話、
しなかった」
「しなくてよかった」
自動販売機の表示が、
静かに変わる。
状態更新:
自己定義、完了
観測:
低干渉モード
低干渉。
それは、
自由ではない。
だが、
檻でもない。
世界は、
答えを得た。
だが、
理解はしていない。
それでいい。
――
理解されないまま
共存する
という立場が、
ここで初めて
成立した。
そして、
この物語が
最初に約束していた通り。
主人公は、
超能力の正体を
誰にも明かしていない。
それでも、
世界は動いた。
次に残る問いは、
一つだけだ。
――
それでも、
力を使う日は
来るのか。
自動販売機は、
何も答えない。
ただ、
静かに光っている。
――
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