第29話 管理の外で、真実が語られる
管理の外で、真実が語られる
1
大学は、静かに距離を取る
公開ヒアリングの翌日。
大学からの連絡は、
驚くほど事務的だった。
「今後、当該学生の学外活動については
大学として直接関与しない方針とします」
「本学のガイドラインは
一般的な注意喚起に留め、
個別事案としての扱いは行いません」
由衣が、通話越しに言った。
「……これ」
「“守らない”って決めたね」
「管理できないものを
抱え込まない、って判断だな」
大学は理解したのだ。
主人公は、
制御も代表もさせられない存在だと。
2
管理外という立場
管理外。
それは自由ではない。
何か起きても、大学は前に出ない
相談しても、公式な支援は期待できない
同時に、干渉もしない
つまり、
完全な自己責任だ。
「楽にはなったけど」
由衣が言う。
「一人になったね」
「……ああ」
それでも、
不思議と怖くはなかった。
むしろ、
ようやく
正しい位置に戻った気がした。
3
妹は、もう回り道をしない
その夜。
由衣から、
珍しく通話のリクエストが来た。
「今日はさ」
前置きもなく、言う。
「ちゃんと話そう」
逃げられない、
その言い方。
4
初めての質問
由衣は、
少し間を置いてから聞いた。
「……あの時」
「事故の時」
「お兄、
何かしたよね」
疑問形じゃない。
確認だ。
俺は、
一度だけ目を閉じた。
そして、
頷いた。
「……した」
5
能力という言葉を使わない
由衣は、
「超能力」とは言わなかった。
「力」とも言わない。
ただ、
こう聞いた。
「それ、
いつから?」
「大学に入ってから」
「制御できる?」
「……
できる時と、
できない時がある」
由衣は、
メモを取らない。
記録もしない。
ただ、
聞いている。
6
主人公が、初めて全部を言う
「自動販売機がある」
俺は、
そう切り出した。
由衣は、
笑わなかった。
「お金を入れると、
能力を選べる」
「レンタルみたいなものだ」
「使うと、
何かが
“こちらを見る”」
由衣は、
一つだけ質問した。
「……
やめられる?」
俺は、
首を振った。
「多分、
完全には」
7
妹の反応は、予想と違った
由衣は、
長い沈黙のあと、言った。
「そっか」
それだけ。
泣かない。
怒らない。
責めない。
「……怖くないの?」
「怖い」
即答した。
「ずっと」
由衣は、
小さく息を吐く。
「じゃあ」
「一人で
背負うやつじゃない」
その言葉が、
胸に刺さる。
8
妹が決めた立場
「私はさ」
由衣は、
はっきり言った。
「能力のこと、
誰にも言わない」
「観測者にも、
大学にも」
「でも」
一拍。
「お兄が
選ぶ時だけは、
一緒に考える」
それは、
守る宣言でも、
止める宣言でもない。
同行宣言だった。
9
管理されないということ
大学は、
主人公を切り離した。
観測者は、
裏から見ている。
世間は、
答えを欲しがっている。
だが今、
主人公の隣には
たった一人、
事情を知る人間がいる。
それだけで、
世界の重さが
変わった。
章ラスト
真実は、静かな場所でだけ共有される
通話の終わり。
由衣が言った。
「……あのさ」
「お兄が
これ以上
表に引きずり出されそうになったら」
「私、
また止めるから」
俺は、
笑った。
「ありがとう」
「でも」
「次は、
一緒に止めよう」
由衣は、
少しだけ笑った。
「うん」
通話が切れる。
部屋は、
相変わらず一人暮らしだ。
だが、
孤独ではない。
自動販売機の表示が、
静かに変わる。
共有状態:
家族(限定)
リスク評価:
低下
大学は、
主人公を
管理外に置いた。
それは、
制度の撤退だ。
だが、
その隙間で。
主人公は、
初めて
嘘をつかずに
“力の話”をした。
世界は、
まだ知らない。
観測者も、
全ては知らない。
だが、
この静かな合意だけは、
確かに存在している。
そして次に来るのは、
観測者からの
完全非公開の提案だ。
表でも、
制度でもない。
――
選ばれた数人だけの
取引の時間。
それが、
もうすぐ始まる。
――
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