第10話 事件は、検証役から始まった

第一章

事件は、検証役から始まった


異変は、

シロクマ先輩のDMから始まった。


「ちょっと相談いい?」


文面は軽い。

だが、

送信時刻が深夜二時だった。


通話を繋ぐと、

彼は妙に疲れた声をしていた。


「最近さ……

俺の配信にも、

変なコメント来てて」


嫌な予感がした。


第二章

“検証役”は守られない


シロクマ先輩の画面共有に、

コメントログが映る。


本当は分かってるんでしょ?

近くで見てて気づかないわけない

嘘ついてるなら同罪だよ


次、どこで会える?


冗談じゃない。


「これ、

冗談のノリだと思ってたんだけどさ」


彼は笑おうとしたが、

声が震えた。


俺は即座に理解した。


“疑い”が、

検証役に向かっている。


第三章

普通の人は、耐え方を知らない


「配信休めば?」

俺は言った。


「それも考えたけど……

休んだら

“答え合わせ”になる気がして」


俺と同じだ。


疑われる側は、

止まることが一番危険になる。


その瞬間、

自販機の表示が、

俺の視界に割り込んだ。


警告:

第三者への被害発生確率上昇


推奨:

防御的使用


“防御”。


初めて出た言葉だった。


第四章

主人公は、選びたくなかった


能力を使えば、

必ず何かが歪む。


今までは、

自分の身だけだった。


でも今回は違う。


俺は言った。


「……一回だけ、

俺に任せて」


シロクマ先輩は困惑した。


「何を?」


「……なんとかする」


第五章

何もしない、という選択はない


その夜。


シロクマ先輩の次回配信に、

例の“執着の強い視聴者”が現れた。


コメント欄がざわつく。


また来た

しつこい

ブロックしろ


だが、

相手は新規アカウントを量産していた。


俺は、

自分の配信を裏で起動する。


タイトルは付けない。

通知も出さない。


観測者は、

必要最小限でいい。


第六章

“守る”ための能力使用


俺は、

未来視(微)を使った。


見えたのは――

コメントがエスカレートする未来。


次に、

確率攪乱。


結果:


問題のアカウントが

連続してコメントを弾かれる


通信が不安定になり

自主的に退出する


外から見れば、

ただの不具合だ。


誰にも、

“俺がやった”とは分からない。


シロクマ先輩の配信は、

何事もなく終わった。


第七章

守られた側は、気づかない


配信後。


「なんか今日は、

荒れなかったな」


シロクマ先輩は、

不思議そうに言った。


「運が良かったんですよ」

俺は答えた。


それ以上、

何も言わなかった。


言えなかった。


最終章

初めて、超能力が“軽く”なった


通話を切ったあと、

俺は椅子にもたれた。


心臓が、

遅れてドクドク鳴る。


怖かった。


バレることじゃない。

使ったことが、だ。


自販機が、

静かに表示を変える。


防御的使用:記録

心理負荷:軽減


「……軽減?」


確かに、

今までで一番、

後味が悪くなかった。


初めて、

誰かのために使ったからだ。


俺は、

ようやく理解した。


この能力は、

目立つためのものじゃない。


守るために使った瞬間、

初めて“意味”を持つ。


だが同時に、

分かってしまった。


――

次も、

俺は使う。


もう戻れない。


自動販売機は、

今日も黙ってそこに立っている。


次フェーズ:

能動的介入の可能性


「……やめろ」


俺はそう呟きながら、

次の配信タイトルを考える。


――

「超能力を使わずに

人を守れるか検証」


コメント欄は、

きっとまた笑う。


だが、

俺だけは知っている。


今夜、

確かに一線を越えた。


それは、

有名配信者になるためじゃない。


誰かを守るために、

力を選んだ夜だった。

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