色々な超能力を24時間1000円でレンタル出来る自動販売機
@TK83473206
第1話 部屋に現れた異物
第一章
六畳一間に現れた自動販売機
俺の部屋は、どこにでもある大学生の一人暮らし用ワンルームだ。
六畳、ユニットバス、ミニキッチン、窓の外は隣のマンションの壁。
家賃は安いが夢も希望も特にない。
俺――**佐倉 恒一(さくら こういち)**は、地方から上京してきた普通の男子大学生だった。
成績は中の下、友達は少なめ、バイトは長続きしない。
特技もなければ将来のビジョンもぼんやりしている。
そんな俺の唯一の趣味は、配信を見ることだった。
人気配信者の切り抜きを見ては
「いいなぁ、ああいう人生」
と、コメント欄をスクロールしながら溜め息をつく毎日。
自分が配信する側になるなんて、考えたこともなかった。
理由は簡単だ。
何も持っていないから。
――少なくとも、その日までは。
大学二年の春。
夜中の三時。
コンビニで買ってきたカップ麺をすすりながら、俺は机の上のスマホを見ていた。
次の瞬間。
「……は?」
俺の部屋の、玄関横の壁に。
見覚えのないものが、置かれていた。
それはどう見ても――
自動販売機だった。
第二章
超能力は1000円から
赤でも青でもない、やけに古びた白色の自販機。
飲み物の代わりに、見たことのない文字が書かれたボタンが並んでいる。
念動力
透視
瞬間移動
未来視(微)
身体強化
記憶改竄(軽度)
そして中央に、こう書かれていた。
超能力レンタル
24時間 1000円
「……夢か?」
頬をつねる。痛い。
カップ麺をひっくり返す。熱い。
現実だ。
試しに100円玉を入れようとして、気づく。
千円札専用だ。
財布の中には、ちょうど一枚。
今月はもうカツカツだが、使わなければどうせラーメン代に消える。
俺は迷った末、
**「念動力」**のボタンを押した。
ガコン、と音がして、何も出てこない。
「……?」
その瞬間。
机の上に置いてあったスマホが、
ふわりと浮いた。
「………………は?」
俺は無意識に手を伸ばす。
スマホは、俺の意志に従うように、ゆっくりと動いた。
落ちる。
浮く。
回る。
「……マジ、かよ」
恐る恐る、自販機の側面を見る。
※超能力は使用者本人にのみ適用されます
※第三者への譲渡・共有・再販不可
――つまり。
この能力は、
俺にしか使えない。
第三章
配信という選択
翌朝、俺はほとんど眠れなかった。
念動力は本物だった。
24時間、確実に使えた。
そして24時間きっかりで、嘘みたいに消えた。
自販機は消えない。
「……これ、ヤバいだろ」
考えた選択肢はいくつもあった。
金持ちになる
悪いことに使う
研究機関に売る
何もなかったことにする
だが、どれもピンと来なかった。
そのとき、スマホに通知が来た。
昨日見ていた配信者が、ライブを始めている。
画面の向こうで、彼はただゲームをしているだけだ。
それなのに、同接は数万人。
俺は自販機を見た。
超能力 × 配信
「……これだ」
顔出しなし。
身バレ防止。
能力は俺だけのもの。
リスクはある。
でも、人生を変えるなら今しかない。
その日の夜。
俺はチャンネルを開設した。
名前は――
「レンタル超能力大学生」
第四章
バズの始まり
最初の配信は、
「念動力で日常生活やってみた」
という地味なものだった。
コップを浮かせる。
本をめくる。
リモコンを取る。
コメント欄は最初、疑い一色だった。
CGだろ
編集乙
手品だな
だが、生配信であることが次第に効いてくる。
俺は手元も部屋も映さない。
それでも、動きはリアルすぎた。
同接は、
100人 → 500人 → 3000人。
切り抜きが拡散され、
翌日には10万人登録を超えていた。
俺は調子に乗った。
透視。
未来視(微)。
身体強化。
能力を変えるたび、
1000円札が消えていく。
金は減る。
だが、再生数とスパチャはそれ以上に増えた。
気づけば俺は、
**「正体不明の超能力配信者」**として話題になっていた。
第五章
事件の影
ある日、コメントにこんなものが混じり始めた。
それ、危なくない?
どこから能力来てるの?
国とか動いてそう
俺は笑って流した。
だが、配信外で奇妙なことが起き始める。
部屋の前に置かれた見知らぬ名刺
大学で感じる妙な視線
深夜に鳴る非通知の着信
そして、自販機の表示に
見たことのない項目が追加されていた。
・能力拡張(未解放)
・契約延長
・警告ログ
警告ログを開くと、こう表示された。
使用者周辺で因果変動を観測
影響範囲、拡大中
「……因果、変動?」
意味は分からない。
だが、胸の奥がざわついた。
その日の配信で、
俺は未来視を使って、ある事故を言い当ててしまった。
数分後、ニュース速報が流れる。
コメント欄が、凍りついた。
最終章
自動販売機はまだそこにある
配信は止めていない。
むしろ、止められなくなっていた。
視聴者は俺を求める。
社会は俺を注視する。
そして、自販機は黙ってそこにある。
まるで、
次の能力を選べ
とでも言うように。
俺は知っている。
この力は、
俺一人のものだ。
だが同時に、
この力が俺を
どこかへ引きずり込もうとしていることも。
世界はまだ、静かだ。
しかし、その水面下では何かが動いている。
俺は1000円札を握りしめ、
次のボタンを見つめた。
――この選択の先に、
どんな事件と、
どんな運命が待っているのか。
それを知るのは、
たぶん、
もう少し先の話だ。
自動販売機は、今日も俺の部屋に立っている。
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