第2話 強盗殺人

 洋二青年が、塾を終えてから帰宅する時間は、いつも、午後9時半くらいだった。

 たまに、

「表で食べてくる」

 ということもあり、そんな時は、午後十時半くらいになることがあった。

 しかし、帰ってから、風呂に入ったりすると、

「寝るまでの間に、ほとんど何もできない」

 ということで、

「なるべく、夕飯は家で食べるようにする」

 と考えて、ほとんど、

「午後九時半」

 くらいには帰ってきていた。

 塾は、週二回で、火曜日と金曜日であった。

 母親は、

「子供の養育と生活」

 だけではなく、

「塾の費用もねん出しないといけない」

 ということから、

「火曜日と金曜日以外の平日」

 に、スナックでアルバイトをしていたのだ。

 その時は、昼のパートが終わっての、夜の仕事、夕飯の準備は、その合間に済ませるということだったので、移動も含めると、月曜日と金曜日は、

「朝出勤してから、夜のスナックが終わるまでの夜12時まで、ほとんど働きづめ」

 ということになるのだった。

 息子とすれば、

「なるべく、母親と顔を合わせたくない」

 と思っていたので、

「これがちょうどいい」

 と思っていた。

 親とすれば、

「もう少し一緒にいてあげたい」

 とは思っていたが、まさか息子が、そんな風に思っているとは知らなかったといってもいいだろう。

「子の心、親知らず」

 というところであろうか、

 そんな感覚は、

「今の子供であれば、当たり前のこと」

 といってもいいかも知れない。

 特に、学校で、いじめ問題などが起こってからか、家庭内で、

「引きこもる」

 という子供が増えた。

 しかも、児童だけではなく、大人になってからも、結婚せずに、仕事もなく、

「自宅で引きこもる」

 という人も多いということで、

「それが、今の時代だ」

 ということであるなら、なまじ、

「昭和の考え方」

 というのも、

「古臭い」

 といって、一概にバカにできるというものではないだろう。

 だから、

「確かに父親の考えも極端だが、だからといって、今の時代の考え方が正しい」

 といえるわけではないのであった。

 父親がどうであるかは、今は関係ない。

 ただ、

「そんな考え方をする人間が、自分の親父だった」

 ということで、洋二とすれば、

「自分にもその血が流れている」

 と考えると、

「決して自分の子供には、同じ思いをさせない」

 ということで、

「親父と同じことは、俺は絶対にしない」

 と思っていたのだ。

 ただ、母親に対して、あまりいい印象は持っていなかったが、それでも、

「いつも、申し訳ない」

 とは感じていたのだ。

 それも、一種の、

「ジレンマ」

 というもので、

「そのジレンマが、最終的に自分を苦しめている」

 ということを分かっていたのであろうか?

 その日は、

「友だちと夕飯を食べてくる」

 ということで、

「午後十時半コース」

 ということになった。

 塾の近くにあるファミレスでの食事だったが、時間的には、塾が終わるのが、

「午後八時半」

 ということで、普段であれば、

「塾を出てから、徒歩で駅まで、そして電車に乗って、最寄り駅まで乗り、そこから歩いて15分ほど」

 ということで、

「決して遠い」

 ということではないのだった。

 もちろん、夜の移動ということで、近いとはいいがたいが、どうしても、食事をするということになると、

「帰りが億劫になる」

 というのも当たり前のことで、

「食事も、ちゃんと時間を決めてからでないと、へたをすれば、ずるずると遅くなり、家に帰って、風呂はいいか」

 などということになると、疲れが取れないままということで、

「生活リズムが崩れてしまう」

 ということは分かっていた。

 だから、

「一時の気のゆるみが、生活リズムを崩し、精神的に時間をいたずらに過ごしてしまうことに、辛さを感じることになる」

 と考えるのであった。

 だから、皆とも相談して、

「食事は一時間」

 と決めていた。

 洋二はまだ近いからいいが、中には、電車から、バスに乗り換えて帰る人もいて、そうなると、

「最終バスの時間がなくなる」

 ということになり、その子にとっては、

「死活問題だ」

 ということになるのであった。

 だから、寄る店も、いつもきまっていて、

「塾と店の延長線上に、駅がある」

 というところに決めていたのだ。

 ドライブイン形式のファミレスで、

「最近は、少し減ってきた」

 といわれる、

「24時間営業のファミレス」

 だった。

 実際に、

「駅に近い」

 ということであったり、

「国道沿い」

 ということで、いつも駐車場は満車だった。

 それでも、なぜか中に入ると、席が満席というほど多いわけではない。

 というのも、

「近くに住宅街がある」

 ということで、

「短い時間だったら」

 ということで、ここに停めて、住宅街へ訪問する人もいるようだ。

 とはいえ、住宅街にいくのだから、

「短い時間」

 というわけにいくわけもない。

 それよりも、

「結構たくさんの人が停めている」

 ということで、

「これだけいれば、自分一人くらい分からないだろう」

 とみんなが思うことで、一種の、

「相乗効果」

 ということになるのだろう。

 決して、いい傾向というわけではないが、店としても、

「流行っているように見せる」

 という一種の、

「サクラ」

 というイメージからか、必要以上に、違法駐車ではありながら、何も言わなかったのだ。

 とはいえ、これも時間帯によるもので、

「ほとんど客がいない時間帯」

 ということであれば、

「あからさま」

 と考え、警察に通報するということも結構あったりするようだ。

 だから、交番あたりもよく分かっていて、

「私たちも、この時間を重点的に見てみることにしましょう」

 という話をしていた。

 というのも、

「以前からこのファミレスの駐車場で、問題が起こっている」

 ということがあったのだ。

 一時期は、深夜の時間帯に、

「車上荒らし」

 というものがあったり、

「違法駐車が長いので、調べてみると、廃車にするしかないような車を放置する」

 というようなものであった。

 どちらにしても、警察としても、放ってはおけないということで、

「交番の見回りを強化する」

 ということにしていたのだ。

 それを思えば、

「違法駐車というものは、警察に任せておけばいい」

 と、いうことになり、

「店は警察に協力する」

 ということで、結局、

「普通の違法駐車で、しかも、客の多い時間」

 ということであれば、

「別に問題にしない」

 ということになったのだ。

 へたに問題にしようとしても、

「毎回同じ車とは限らない」

 ということで、それこそ、

「自宅の駐車場替わり」

 ということでもない限り、

「警察も関わることもできない」

 といえるからだった。

 その日は、車も相変わらず多く、ちょうど食事をする時間は、満車に近かった気がした。

 いつものように、食事を食べていると、その表から一人の男が、文句をいいながら、

「ウエイトレスの女の子」

 に、詰め寄っていた。

 女の子は、どこか、困惑した様子で、

「少々お待ちください」

 ということで、店長を呼びに行ったようだった。

 そして、店長が出てくると、二人で、表の駐車場に出ていくのが見えた。

 その男は、思ったよりも、背が高い男性だったので、身長が、180㎝はあるのではないだろうか?

 やせ型で、髪型は、おかっぱぽい感じの、どちらかというと、

「坊ちゃんタイプ」

 ということで、洋二には、印象深い人だったのだ。

 それとなんといっても、

「塾の講師の一人と似ている」

 ということから、

「この人の顔は、そう簡単に忘れることはないな」

 と思ったのだ。

 もちろん、それが、塾の先生ではないことは分かり切っていた。

 そもそも、塾の先生は、身長は人並みで、目立つのは、顔と雰囲気だけということだったのだ。

 それを思えば、

「坊ちゃんというのは、人に覚えられやすく、目立つものだな」

 と感じた。

 だから、

「きっとこの場面を見た人は、皆その人の印象を、そう簡単に忘れるということはないだろうな」

 ということであった。

 表に出ると、どうやら、もう一人の誰かとトラブルになっているようで、気になって表に出てみると、どうやら、

「警察を呼びますか?」

 と店の人がいうのを、なぜか、二人とも、

「警察はいいです」

 といっているようだった。

 一人は、

「警察を呼ばれると困る」

 と思ったとしても、もう一人は、

「警察にけりをつけてもらいたい」

 と思うだろう。

 それなのに、二人とも呼びたくないというのは、どういうことなのかと考えるのであった。

 ただ、一つ言えるのは、

「事故処理が必要」

 ということではないということだ、

 だが、さらに聞いてみると、接触したのは間違いないようで、一人が、

「これは修理代」

 ということで、数万円を相手に渡しているのが見えたので、

「保険を使う」

 という意思がないのか、それとも、

「警察に連絡されるのがまずい」

 というのかということだ。

 しかし、人身ではない接触事故ということであれば、民事の問題なので、確かに、

「事故証明」

 というものがなくてもいいのであれば、

「別に警察を呼ぶ必要はない」

 ということを、誰かに聞いたことがあった。

「免許所を持っているわけではないので、これ以上詳しいことは分からない」

 ということで、洋二は、そのまま、店の中に入っていったのであった。

 その時の、

「この目撃」

 というのが、この後の展開で、重要な意味を持つということになるのであった。

 ちょうどそれが、食事が運ばれてきて、食事を始めたという頃のことだったので、ちょうど、

「午後九時すぎくらい」

 ということであった。

「食事をしていた」

 ということから考えて、その時間だというのは、

「乗った電車が、10時過ぎだった」

 ということから逆算して考えたことだということからも、

「間違いない」

 と思えるのだった。

 ただ、乗った電車が、

「午後10時過ぎ」

 ということは、

「普段よりも、30分くらい遅い」

 ということを意味しているのであった。

 実際に、電車に乗って家の近くまで来た時、

「いつもよりも、30分は遅いな」

 と思ったからであった。

 だから、家の近くにくるまでは、

「お母さんから何を言われるか分からない」

 ということで、いつも遅くなった時のように、

「なんていいわけをしようかな?」

 と考えていたのではないだろうか。

 後での供述がそうだったのだ。

 実際に家の近くまで来てみると、何やら喧騒とした雰囲気が感じられた。

 数台のパトカーが来ているということなのか、

「普段は、夜の静寂に包まれた状態の、閑静な住宅街」

 であるにも関わらず、パトランプが、クルクル回っていて、

「まるで、殺人事件が起こったかのようだ」

 と、最初は他人事だった。

 しかし、近づいてみると、警察が入っているのは、

「自分の家」

 ではないか。

 すぐに、

「お母さん」

 と思い、家に入った。

 確かに、

「母親の安否が心配」

 ということであったが、それ以上に、

「厄介なことに巻き込まれたくない」

 というのが本音だったのだ。

 だから、

「何かがあった」

 ということは分かっていたが、

「最初は、大したことはない」

 という発想から、次第に、

「そうではない」

 と思うようになると、少しずつ、事態を大きく感じるようになってきたということであった。

 だから、

「まさか、殺人事件?」

 と思うようになる前は、

「強盗でも入ったのかな?」

 と思った。

 その前は、

「空き巣か?」

 ということであったが、その一つ一つ、それぞれに、重大なことだといえるのではないだろうか?

 だが、まさか、これが、

「最悪の結果になっている」

 とは思ってもいなかった。

 内容としては、

「母親だけ一人でいた家に、強盗が押し入り、母親に切り付けて、結局は何も取らずに、逃げていった」

 ということであった。

 母親は救急車で地位核の病院に運ばれ、

「重症だ」

 ということであるが、

「命に別状はない」

 ということで、事なきを得たと思っていた。


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