12月13日、冬ざれの朝

12月13日、冬ざれの朝


冷え切った空気の中、私は火の見櫓のそばを歩いていた。遠くの屋根から立ち上る煙を眺めながら、手袋の中で手を擦り合わせる。北風が頬を刺すように吹き、息は白く濁った。

「……寒いなぁ。」

独り言のように呟くと、冬帽子の下の髪が風で乱れた。目の前の枯野には、まだらに雪が残り、冬の鳥がちょこちょこと飛び交っている。浮寝鳥が水面に揺れる姿は、どこか眠たげで、冬安居をしているみたいだ。

ふと、雑炊の匂いが風に乗って鼻をくすぐった。近くの家から、味噌を焦がしたような香りが漂う。腹の底から温かさがじんわり広がる。

「ねえ、今年の神迎え、行く?」

隣で歩いていた友人が訊く。手袋の隙間から指を出して私の肩を突ついた。

「うん……行きたいな。」

そう答えながらも、胸の奥は少し躊躇していた。寒さだけでなく、心のどこかにぽっかり穴が空いたような感覚があったからだ。

冬ざれの川沿いを歩くと、水草紅葉が凍った水面に沈み、光を反射して小さな赤い点々を作っていた。水鳥たちが騒がしく羽ばたき、冬鴎が一羽、遠くの岩に止まった。

「見て、あの鴎。じっとしてるのに、寒そうだね。」

私が指差すと、友人は笑った。

「そう見えるけど、意外と暖かいのかもよ。水の上って、案外温かいらしいし。」

私は小さく笑って、その場に立ち止まった。手袋越しに手をこすり、冬温しの言葉を思い出す。冬の冷えに耐えながらも、どこか心がほんのり温まる瞬間。今日の朝は、まさにそんな時間だった。

「さっきの雑炊、食べてみたいな。」

「行こうか。火の見の隣の家だよね。」

友人が先に歩き出し、私は後ろからついていく。小道には、石蕗の花がまだ少しだけ咲いていて、黄色い花が寒空の中でよく映えた。

家に入ると、甘く香ばしい味噌の匂いが立ち込め、火のそばには大きな鍋が置かれていた。鍋の中で雑炊がゆらゆらと揺れ、湯気が頬に触れる。私の手は自然と鍋の蓋を触りたくなった。

「熱いから気をつけて。」

おばあさんが笑って差し出す鍋の蓋。

「はい……ありがとう。」

私は手袋越しに蓋を持ち、湯気を顔に浴びた。ほのかに味噌の香りと温かさが肌に染み込む。

外に出ると、風はまだ冷たかったが、心は少し軽くなった。冬帽子を深くかぶり直し、冬ざれの道を歩きながら、私は思った。寒くても、冷たくても、人のぬくもりと小さな喜びは、ちゃんと伝わってくるのだ、と。

「ねえ、見て。」

友人が指差す先には、枯野の向こうに小さな光が見えた。冬の陽射しが低く差し込み、氷に反射して輝いている。

「きれい……」

私の声は自然と震えた。心の奥がじんわりと温かくなる感覚。十七歳の冬、私はまだ知らないことが多くて、でも今の小さな美しさに胸がいっぱいになる。

火の見櫓の上で、私は小さく息を吐いた。

「寒いけど、いい日だね。」

「うん、最高の冬ざれだ。」

友人の声が、北風に乗って耳に届く。

そのまま、二人で冬の枯野を歩きながら、私は思った。北風が吹き抜けても、水鳥が飛び交い、石蕗の花が咲き、雑炊の湯気が立ち上る。この冬の世界の中で、私の心も少しずつ動いているのだ、と。

冬の朝、十七歳の私は、寒さの中にある小さな温もりと、まだ見ぬ景色に胸を震わせながら、今日という一日を迎えたのだった。


冬ざれの 火の見のそばに 雑炊の

香を吸い込めば 石蕗の花咲く


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