護ノ空 〜一度は散るはずだった空へ、もう一度翔ける

@Sinokumo

第1話 帰ることのない飛行

空は、焼けていた。


 鉛色の雲の切れ間から差しこむ光が、海面に細い道を作っている。帰るはずのない道――いや、そもそも帰ることなど最初から許されていなかった。


 葛城護は、白く曇った計器盤を睨みながら、息を吹きかけて拭った。油と海風の匂いが混ざった、戦場の匂い。

 高度はわずか二百。敵艦隊は目前だ。けれど、エンジンはもう二度と唸ることはなかった。

 共に戦った戦友たちは、護の異常を察知し護の機体の周りに集まった。


—————— 先に行く。ありがとう


散ることを目的に改良されたこの機体には、通信機の類はない。


声は届かない。

ただ、そう言われたのだということはわかった。


戦友達は次々と空を裂いて飛び込んでいく。


弾幕を受け機体はボロボロ。

煙を吹き、炎を立ち上らせながら彼らは逝く。


護を置いて


眩い火柱が立ち上がり、そのたびに護の胸が張り裂けそうになった。



 叫ぶことも、泣くこともできなかった。


 ただ、見ていることしかできない。



 ――俺だけ、死ねなかった。



 次の瞬間、機体は大きく傾き、海面に叩きつけられた。

何も成せなかった…

 沈んでいく機体。冷たい水が肺に入り、後悔に、悲しみに、怒りに…どうしようもない感情が荒れ狂い。意識を失いかけた 刹那、視界に白い裂け目が走った。

護はこれが死かと… 終わりなのだなと思った

「あぁ、みんな。そちらで会おう」

そして護は意識を失った



 空とも海とも違う、光の向こう側。その光は異世界からの召喚。その光であった。

 偶然か、必然か。異世界が護を欲し、彼は


 護は異世界の扉を越えた。







 気づけば護は、見知らぬ天井を見上げていた。


 金属の匂いと、微かな電気の唸り。

 そして知らない言語の怒号。


 ――ここは、どこだ。


 護はゆっくりと体を起こし、

 “異世界”での二度目の人生が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る