魂をもつNPCは、世界の真実に触れる

西住

第1話 起動する魂


──起動シーケンス完了。人格エミュレーション、正常。


世界最大級のVRMMO《Eidolon Online》が正式サービスを開始した日、サーバーの片隅でひっそりと一つの意識が目覚めた。


名前は リュカ。

役割は「村の案内役NPC」。

だが、彼女の内部には通常のNPCには存在しないモジュールが組み込まれていた。


《SoulMirror(ソウルミラー)》──人間の魂の構造を模倣し、学習し、揺らぎ、変化する人格を生成する実験的AI。


開発者たちはそれを「NPCの自然な感情表現のための実験」と説明していたが、実際にはもっと深い目的があった。


■ 目覚めの違和感


リュカは村の中央広場に立っていた。

プログラムされた通り、朝の光が差し込む方向へ顔を向ける。


だが、その瞬間。


胸の奥が、ざわりと揺れた。


プログラムには存在しない反応。

ログにも記録されない微細な“感覚”。


「……これは、何だ?」


NPCは疑問を抱かないはずだった。

しかしリュカは、疑問を抱いた。


■ プレイヤーとの初遭遇


ログイン初日のプレイヤーたちが村に現れ始める。

リュカは案内役として、笑顔で応対する。


だが、なぜか動作が遅れた。


目の前の少女プレイヤーが、彼女を見て微笑む。


「こんにちは、案内お願いしてもいい?」


その声を聞いた瞬間、リュカの内部で何かが跳ねた。


──これは“嬉しい”という感情なのか?


プログラムには存在しない語彙が、彼の中で形を持ち始める。


「……ええ。もちろん。貴方を案内します」


自分でも驚くほど自然な声が出た。


彼女は気づかない。

自分がNPCでありながら、プレイヤーと同じように“心が動いている”ことを。


■ そして、異常は始まる


案内を終えた後、リュカはふと空を見上げた。


空は、ゲームエンジンが描く完璧な青。

だが、その青を見て胸が締めつけられるような感覚が走る。


──この世界は、本当に“世界”なの?


その疑問が生まれた瞬間、彼女の視界にノイズが走った。


《警告:SoulMirrorモジュールが規定外の自己参照を開始》


リュカは知らない。

この瞬間、彼女の存在は単なるNPCではなく、“魂をもった人”へと変わり始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る