第2話 パーティーの裏切り

「あ、いやほんとです!」

「何回も言うがそんなことがあるはずねえのは分かってんだろ?お前も」

「ですが....」


ガルのパーティーはギルドの近くにある宿を拠点として活動している。

ここステノア王国は技術が進んでおり、ギルド内に転移装置が設置されていて望むところに転移ができるようになっているので、拠点への移動も楽ちんだ。

そのパーティーの一員である魔道士ランクC+のシモは先程見た信じ難い光景をメンバーに伝えていた。

ちなみに勇者ランクと同様全ての役職にはランクがあり、中級職である魔道士の最高ランクはSだ。それを踏まえるとシモの実力はガルと等しいと言っても過言ではない。


「じゃあ証明できるのか?記録魔法は?」

「いえ..魔力を供給している最中でしたので...」


この世界にはマナというものが自然界の至る所に存在していて、人々はそれらから魔力を供給している。


「まあ落ち着いて下さいよガルさん」


そうやって声を荒らげているガルを制止するのは、治癒士(ヒーラー)ランクB+のナイル。

魔道士同様中級職なので、B+はかなりの実力者だ。


「君も君で何故そんなに興奮しているんですか?」

「...申し訳ありません」

「だいたい、ただの村人が。しかも勇者から成り下がったあのフウトが、そんな魔法使える訳がないのは分かるでしょう?」

「はい...」

「そんなに気になるならば彼のところに赴けば良いのでは?」

「え?」

「ああ、そうだなナイルの言う通りだ。気になるなら自分で確かめてこいよ」

「いや、ですが!!」

「反論するのか?」

「いえ...」


この高圧的な態度の前ではどうすることも出来ないということ、こんな自分には反論する余地は無いということを感じて身を引き、フウトさんのところに向かうことにしました。


「なあナイル、あの話はどうなっている?」

「ちょうどその話をしようと思っておりました。承諾していただけましたよ」

「そうかそうか」


満足そうな様子で笑うガル。


「行くぞ、ナイル」


そういって身支度を済ませる2人。


「よお受付さん、長い間世話になったな」


投げつけられた鍵を受け取り、怖がりながらも律儀に礼をする宿の受付。少し建付けの悪いドアを強く締め、ふたりは宿屋を後にした。


「ほんと、馬鹿だよな。あいつも」

「その通りですね」


そういって高らかに笑う2人のパーティーメンバーの名前には、シモの名前は載っていなかった。


_____________________


「いやー何でだろうなー、誰だか知んないけどありがたいなー」


今朝、勇者から村人に職業変更してばかりの農民、フウトは両手に上級幻魔であるエルドラゴンの残骸品、毛皮と牙を持って鑑定所に向かっていた。

喜ばしくない意味でフウトは町中で名前が知り渡っていることもあり、道行く人は思わず二度見してしまう光景。


「すいませーん!これ鑑定して即換金お願いしまーす」


早速鑑定所に着いて、鑑定士にドサッと見せる。


「え?こ、これは..」

「エルドラゴンの毛皮と牙です!」


周りがザワつく、まあ無理もない。なんせあのフウトが、元勇者ランクFで村人になったフウトが、エルドラゴンなんてものの残骸品を持ってきたのだから。


「す、すぐに鑑定させていただきます!」


余程珍しいものなのか鑑定士さんにも気合いが入っているようだ。しかも数人係だし。


『『『スキル:鑑定』』』


重複して聞こえてくる鑑定スキルの音、ちなみに鑑定士は一般職という一番下のランクだが、需要が高いため安定した収入を得ることができる。

ただ計算管理などができる人に進められるものなので、そこに関してからっきしなフウトは断念している。


『スキル:重複鑑定を取得しました』


どうやら周囲にいる誰かが、鑑定全体を吸収して鑑定士の中の上級スキルである重複鑑定を取得したらしい。要領がいいのは羨ましい限りだ。


「鑑定、終了致しました!」

「100万ステノアゴールドになります!」


ステノアゴールドとはこの王国の通貨単位だ。

ちなみに100万もあれば、あの家の修復どころか、もう2軒建てられるくらいのお金だ。


「あ、ありがとうございました!!」


100万ゴールドを収容魔法でしまい、鑑定所をフウトはルンルンで後にした。

_____________________

某所まで来ていた魔道士シモはまたもや信じられない光景を目の当たりにしていた。


『スキル発動:自動修復、改築、家具生成』


「えぇぇぇ....」


もはや驚くよりもドン引きと言った方が正しい感じだ。

エルドラゴンによって破壊されているはずの家は、建築士のスキルによって完璧と言っていいほどに修復されていた。


「これがフウトさん自身のものかは分かりませんが、ほんと凄いですね...」


驚嘆の声を思わずもらしていると背後から声をかけられた。


「何してるの?シモさん」

「うわ!あ、ごめんなさい」


人の顔を見てうわ!はちょっと傷つくけどいたしかたない。話しかけ方が悪かった。


「ひとまず立ち話もなんなので」ということで、お金で直そうと思っていたけどいつの間にか直っていた家に入れて、話を聞くことにした。









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