第2話 Fランク、ダンジョンで迷子を拾う

◆ 1.ギルドの大騒ぎの翌朝


翌朝。

ギルドはまだ昨日の“浅層に中層ボスが出た事件”でざわついていた。


「犯人は絶対近くにいるはずだ!」

「モンスターを懐かせるなんて、どんな裏技を……」

「誰か変なことした奴はいなかったか!」


そんな中、ユウトはのんびりと受付に向かう。


「おはよー。今日も散歩してくるねー」


受付嬢ミユキ

「……あなた、本当に何もしてないんですよね?」


ユウト

「うん。おにぎり食べてただけ」


ミユキ

「その“だけ”が一番危険なんですよ!!」


ギルド職員が一斉に振り返る。


「おにぎり!?」

「まさか、モンスターに与えたのでは!?」

「料理スキル使いの冒険者か!?」

「捕まえろ!!」


ユウト

「えぇ……なんで?」


◆ 2.今日もダンジョン散歩へ


逃げるようにダンジョンへ向かったユウト。

ゲートを潜っただけで、外より落ち着くのだから不思議な男だ。


「はぁ……やっぱ静かで良いなぁ」


そう言いながら歩いていると、背後から小さく震えた声が聞こえた。


「……ひ、ひぃ……た、たすけ……」


「ん?」


振り返ると、

青いマントを羽織った少女が通路の隅で震えていた。


年齢はたぶんユウトより少し下。

顔は泥だらけ、髪はぼさぼさだ。


「大丈夫? 迷子?」


少女は震える声で叫んだ。


「ち、ちかづかないでっ! あなた……モンスターよね!?」


「え、俺が? 人間だよ?」


「だ、だって……! さっきスケルトンがあなたを見た瞬間、逃げていったの……

 も、もう……見たことないくらい全力で……!」


(あー、また何かやっちゃったのかな)


ユウトは心の中でため息をついた。


◆ 3.とりあえず保護


「とにかく、安全な場所まで案内するよ。ほら、立てる?」


少女は警戒しながらも手を取る。


「……わ、私はミナ。Fランクで、初めてのダンジョンで……」


「あー、初心者か。じゃあ余計に怖かったよね」


「う、うん……。あの……あなた、本当に人間……?」


「しつこいなぁ。ちゃんと血も通ってるよ」


ユウトが手をひらひら振った瞬間――。


ドゴォォォン!!


通路の奥で爆裂音が響く。

大男の冒険者たちが逃げながら叫んでいた。


「ヤバいぞ! Bランク武闘熊(ベア)だ!!」

「なんでこんな浅層に!? 誰か怒らせたのか!!」

「だ、誰だ!? ベアの縄張りにおにぎり置いた奴は!!」


ユウト

「あ……昨日の余り、置きっぱなしだったかも」


少女ミナ

「犯人……あなたじゃない!!」


◆ 4.武闘熊との遭遇


次の瞬間、通路の奥から巨大な影が現れた。

筋肉の塊、岩のような肩、裂けた牙。


〈グオオォォ!〉


冒険者たちは悲鳴を上げて逃げる。

ミナは震えながらユウトの背中に隠れる。


「あ、ベアさん。昨日のおにぎり、やっぱ気に入った?」


〈……グル〉(頷く)


ベアがユウトの足元に座り込む。

巨大な熊が“おかわり”の顔をしている。


「……可愛いなぁ。はい、もう一個」


〈グルッ〉(嬉しそうに受け取る)


周囲の冒険者

「可愛いじゃねぇよ!!」

「なんでベアがペットみたいになってんだよ!!」

「おにぎりひとつでBランクが懐くな!!」


少女ミナ

「……すごい……。なにこの人……」


ユウト

「え? ただのFランクだけど?」


ミナ

「ど、どこが!?」


◆ 5.ギルドに帰還


その日の夕方、ギルドに戻ると――。


ミナ

「こ、この人に助けてもらいました! 命の恩人です!」


ギルド職員

「ユウトさんが!? Fランクのあなたが!?」

「いや、その……どうやって助けを……?」

「まさかまた“おにぎり”ですか?」


ユウト

「うん」


職員全員

「やっぱりか!!」


ミユキ

「……あなたの危険度、Aランクより高い気がします」


ユウト

「えぇ……」


少女ミナはキラキラした目でユウトを見つめていた。


「ユウトさん……弟子入りさせてください!!

 わ、私も……ダンジョンで散歩できるくらい強くなりたいです!」


「いや、散歩できるようになるのに強さいらないよ?」


「……この人、“自覚”がない……!」


◆ ◆ ◆


こうしてユウトは、

なぜか“弟子希望者”を連れた状態でダンジョンに通うことになる。


もちろん本人は、

自分がギルド内の要注意人物に認定されたことなど

露ほども気づいていない。


次回:『Fランク、弟子を連れて散歩する』。

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