最底辺冒険者のまったりダンジョン散歩

塩塚 和人

プロローグ

世界にダンジョンが発生して二十年。

街の中心にそびえる巨大ゲートは、今日も冒険者たちで賑わっていた。


その入口の横で、ひとりの青年が深呼吸をした。


「よし。今日もいい散歩日和だなぁ」


そう言って、Fランク冒険者・ユウトは軽い足取りでダンジョンに入っていく。

高価な武器も防具もない。弁当と水筒、そして歩きやすいスニーカーだけ。


――数時間後。


「ん? また知らない階層に来ちゃったな」


普通ならAランクでも苦戦する深層。

しかしユウトは気づいていない。

彼の歩く速度に合わせて、モンスターが微妙に道を開けていることに。


「そろそろ休憩するか……お、キレイな苔だ。持って帰ったら料理に使えるかも」


そこへ保安隊の一人が駆け込んできた。


「な、なんでFランクがこんな階層に!? 生きて……生きてるのか!?」


「え? あ、どうも。散歩してただけなんですけど」


その日、街では噂が飛び交った。


『Fランクの青年、深層で優雅にピクニック』


こうしてユウトの“まったり無双”は、誰にも止められなくなっていく。

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