Tier C 上位【呂隆・姚泓・劉禅・慕容超・劉曜】

【企画全ページ共通エクスキューズ】

 この企画にて紹介される人物たちの事績において重要なのは「史書にこのように書かれている」=「史書がこのように書く必要があった、と評価していた」です。「その人物が実際にそうであった」と言うことではないと、割と強めにご認識下さい。

 つまりキャラクターとして消費するのはアリ、と言うか大切な入り口だと思うんですが「史学的な人物評価に直結させてしまうとあぶないよ」とは書いておきます。

 この辺、たぶん上位人物を紹介するときにはかなり意識して書きます。マジで危ない話なので。


 ギャク張りダイスキ! なみまさん。

 うそですただ自分なりに調べた結果に対して忠実にありたいだけです。というわけで皆様お待ちかね、とはいえついった三国志界隈ではわりと典型的暗愚とは思われなくなりつつある劉禅を含む滅亡時君主まつりの Tier C 上位です。

 ところで曹芳のところでうっかりナラティヴと口走ってしまいましたので、ここについて書いておきます。劉禅にも深く絡むことなので。

 ナラティヴ。この語を、カオナビ様では「語り手自身が紡いでいく物語です。主人公は登場人物ではなく語り手となる話者自身。」と説明しています(ナラティヴとは?)。この企画向きに言い換えてみると、「目のあたりにした物事を自身の願望、予断に基づき評価すること」となりますでしょうか。

 たとえば、こんなナラティヴがあります。「アイドルはウンコをしない」。俺たちに夢と希望を与えてくれるアイドルは妖精さんみたいなものだから生活とは無縁だ、みたいなやつですね。

 このナラティヴ、あなたは信じますか? 俺は信じません。が、「おもしれーな」と思い、なんだったらそこに乗って遊びます。楽しいからね。

 けど、ここで「アイドルがウンコしてた! 幻滅した!」とかガチで言い出す人のこと、どう思いますか? ヤバいですよね。けどいるんですよ、実際に。こと、歴史に絡むナラティヴの場合。

 ナラティヴ、そのものは素晴らしいものでもあります。たとえばとあるチームが一致団結して力を発揮できるのするのは、ナラティヴの共有ゆえです。けど、悪い方向にも働く。差別や憎悪扇動などは、悪いナラティヴです。つまりナラティヴ「そのもの」はあくまでニュートラル。

 しかしこの企画では「クソ君主」に対してのナラティヴを取り扱っています。ともなると、どうしてもナラティヴという言葉そのものにネガティヴなニュアンスを付与してしまいかねない。それはご勘弁願いたい。そこで当企画において、以降ふたつの言葉を用います。「聖人化」「悪魔化」です。どちらもナラティヴの言い換えに過ぎません。

 これが、共通エクスキューズを毎回貼っている理由です。「聖人化」「悪魔化」は、どちらも「わかったつもり」しか招きません。しんどいことだとは思いますが、「わかる」なんてことはありえないと思ってください。そして、そのうえでクソ君主たちの「悪魔化」された姿を一緒に笑っていただければ、と思います。


 なお、見出しは

 名前(生年-即位年-没年 時代・国諡号)

 とあらわします。



○35位 呂隆(?-401-403後涼滅-416 五胡後期・後涼末主)


後涼滅亡、悪行は中程度。(DeepSeek)

小国最終皇帝組。「詰み盤面で置物だった」系。(ChatGPT)

後涼のラストエンペラー。残酷な性格で民心が離れ、滅亡。(Gemini)

後涼を滅亡させた。無能による統治の混乱。兄呂纂を殺害して即位するも無能。(Claude)

後涼滅亡。無能・降伏・乱世寄与。(Grok)

後涼の凡庸君主。(Copilot)


偏差順位22:結構分散

 ここまで述べてきたとおり、君主が誰を後継者に据えるかはしぬほど大事です。そして同時に、これもあります。後継者の選定に、臣下が従いたいと思えるか。国が立った瞬間大分裂をかました後涼はこの点でも、いや、こんな情勢下だったからこそ後継者選びにコケて滅んだ、と言えるでしょう。

 後涼を立てた呂光はその後継に呂紹を選びましたが、その呂紹。呂光死亡当日に殺されました。その後わちゃくちゃがあるんですが飛ばします。わちゃくちゃなので。いろいろあって即位した呂隆は呂光の甥。まあお飾りです。し、この頃ともなると周辺諸国からバチバチに詰められまくっています。こうなると国を守るどころではなく、呂隆は周辺諸国のうちで最も強盛であった後秦、姚興のもとに投降。ひと足先に四涼おもしろ組んず解れつから脱出、長安に無事逃げ込みました。慧眼、と言うべきでしょう。しかしタイミングがひどかった。まもなく姚興死亡というときでした。次に見えている姚泓は後継者でありながら兄の姚弼(いわゆる強いが徳に欠けるクチ)に圧迫されており、その立場も脆弱。そして呂隆が与したのは姚弼側。最終的に姚興は姚弼を処刑した末死亡するのですが、時既に遅し。いまさら兄を取り払われたところで姚泓の権威が高まるはずもなく、後秦は亡国モードまっしぐらとなるのです。

 あと呂隆は姚弼のついでに殺されました。



○34位 姚泓(388-416-417 五胡後期・後秦末主)


後秦滅亡、悪行は少ない。(DeepSeek)

小国最終皇帝組。「詰み盤面で置物だった」系。(ChatGPT)

後秦のラストエンペラー。劉裕に滅ぼされる。無能だが悪人ではない。(Gemini)

後秦を滅亡させた。無能だが残虐ではない。劉裕に敗北。(Claude)

後秦滅亡。無能・敗戦。(Grok)

凡庸で後秦を失った。(Copilot)


偏差順位32:まぁまぁ一致

 ザ生きる罰ゲーム。とはいえ西晋司馬鄴よりはまだやりようもあったのでは、とも思うのでクソ入りです。その死亡周りを読むと、明らかに晋書が同情してて、もうなんというかこう。

 上で書いたとおり、後継者に立てられておきながら親父はアニキを寵愛、アニキ周りは「弟廃してあんたが王になっちゃいなヨ!」とそそのかすしで、いつ廃し殺されてもおかしくありませんでした。一応ここで姚興を弁護しておくと、この頃後秦は次々と名将を失っていて、姚弼は数少ない戦上手だったんですよね。なので取っておきたかったんでしょう。けど……やっぱり耄碌、としか言いようがない。

 姚弼が退場したとはいえ国内はガタガタ、宗族は次から次に離反。ここに襲いかかるのが東晋の魔王、劉裕。姚興のおかげで死亡後の後秦が終わるのが確定だったので、劉裕は事前に入念に準備を整え、姚興死亡の報が届き次第即出征、後秦を滅ぼし、姚泓を殺し、関中を得ましたーーもっともこの関中奪還は一年と保たず、その失敗により身を危ぶんだ劉裕は性急な簒奪劇に動くのですが。

 ついでに書いとくと、この関中獲得戦があまりにも圧勝過ぎたため劉裕は唐(正確には武周)の朱敬則より「敵が弱いおかげで武勲取れてよかったね」くらいのことを言われています。あのさぁ(同意もしますけど)。



○33位 劉禅(207-223-263蜀滅-271 三国・蜀後主)


蜀漢滅亡、無能だが悪意は薄い。(DeepSeek)

蜀漢を丸ごと落とした象徴。人格的クソ度は低いが「国体破綻」点が重い。(ChatGPT)

国を滅ぼした責任は重いが、40年の安定統治と、悪意のなさ(黄皓の専横を許した程度)で中堅ランク。(Gemini)

蜀漢を滅亡させた。宦官重用、享楽志向。「楽不思蜀」の故事。(Claude)

蜀漢滅亡。無能・降伏。(Grok)

「楽不思蜀」で有名な凡庸君主、国体維持に失敗。(Copilot)


偏差順位21:結構分散

 先に結論を言ってしまいましょうかね。トップクラスの暗君と呼んで差し支えないです、期待と結果との落差という軸で評価すれば。では、期待とは何か。「天下統一以外のすべての結果がクソ」です。つまり劉禅は、クソどころか国すら滅ぼした。この落差の凄まじさこそが、劉禅を最悪の暗君と呼ばせた、と言って間違いありません。

 なんでこんなことになったのか? これはほぼ朱子学(にて象徴化されている国家正統観、以降朱子学と統一)のせいです。自分は朱子学そのものについては学んでいませんが、朱子学がどのような史観を持つか、は見てきました。その端的な例が、「三国志における正統国家を魏から蜀にすり替えたこと」。これによって、劉禅は結構長期間頑張ったけどどうしようもなくなって無血開城を選んだひと、から「正統国家の主として果たすべき責務をなげうったやつ」と悪魔化されました。この辺三国志演義がマジで上手いんですよ、諸葛亮死後、劉禅降伏までってタイムスパンで言えばそこまでと同じくらいの長さがあるのにぎゅっと圧縮して、劉禅の在位期間が短く感じられるよう小細工してますからね。

 朱子学は南宋の発祥。当時金やモンゴルといった北方の強大な国家に圧迫されていた中で、武に劣る宋人がせめて理念の上では優越している、と示すために歴史事象を評価します。つまり歴史事象に対して「こうあるべき」と主張しまくったんですね。ここに則れば聖人化、背けば悪魔化。そして劉禅と司馬衷が、この価値観において最もネガティブ方面に乖離したケースであった。もう一回言います。最悪の暗君です、「この価値観下において」。

 なのでまぁ、悪魔化のヴェールを剥がしてしまえばこんな感じ。もちろん国を滅ぼしてしまった責任はあります。が、事績だけで評価をすれば、それ以上の暗君はいくらでもいるのです。

 そして、これも言っておきましょう。劉禅が暗君の象徴と扱われてしまっていること、そのものを風化させてはなりません。我々は、そうと知らずナラティヴに乗ってしまえば、いくらでも酷薄になれてしまうのです。

「自分は違う」? ありえないですからね、それ。



○32位 慕容超(385-405-410 五胡後期・南燕末主)


南燕滅亡、悪行は中程度。(DeepSeek)

東晋の北伐を食らって南燕滅亡。(ChatGPT)

南燕ラストエンペラー。狩猟に熱中し政治放棄。劉裕に斬られる。(Gemini)

南燕を滅亡させた。若年で経験不足。劉裕に敗北し処刑。(Claude)

南燕滅亡。奢侈・残虐。(Grok)

享楽に溺れ、南燕を滅ぼした(Copilot)


偏差順位26:結構分散

 よくわからない。

 いやマジで。確かに結果は叔父より引き受けた国を数年で潰した末代君主ですし、クソに十分該当するんです。ただし問題は、そう呼ぶにはあまりにもふるまいと結末が英雄的すぎる。

 南燕。ものすごく雑に語ると、ひととき華北を統一した前秦が淝水で三つに割れたあとの東の国、のさらに南半分です。つまり末端も末端、東晋との最前線。この地は南北両国が取ったり取られたりをずっと繰り返していました。そんな場所で開かれた国なんてド短命待ったなしなのです。にもかかわらず慕容超の叔父である慕容徳はこの地に確かな勢力基盤を築きました。本人の統制力がヤバいのと同時に、当時の燕がどれだけハイブランドだったのかも示しています。

 そんな慕容徳のあとを継いだ慕容超はクソ君主と書かれます。にもかかわらず、劉裕という当世最強武力を前に、しかも一切の後援も期待できないという絶望的状況下で半年以上もの籠城作戦をやってのけました(ちなみにあと数ヶ月粘っていれば南方で大規模反乱が起こるので、ワンチャンも生じかねない状態でした)。しかも慕容超が降伏する際には城内のものがすすり泣いた、と書かれる始末。長期に渡る籠城戦って、たいがい疲弊が積もり積もって城主を部下が売る形で終焉しがちなんですよ。けど、慕容超はそうじゃない。ちょっと普通に異次元レベルの統率力じゃない? しかも処刑に際して言う言葉が「わが母と妻をよろしく頼む」のみ。粛々と刑場に向かっています。

 劉裕は南燕を攻め落とすのに想定以上の粘り腰を喰らい激怒しています。対する慕容超のリアクションが、これ。クソはクソとしてみなすべきと思うんですけど、それにしてもこのクソは、……なに?



○31位 劉曜(275?-318-329 五胡前期・前趙)


前趙滅亡、悪行は中程度。(DeepSeek)

前趙の最終局面を取り逃がした側。(ChatGPT)

実力はあるが酒癖が悪く、落馬して捕まる。暴君というより不運な猛将。(Gemini)

後趙との戦いに敗れ前趙を滅亡させた。酒癖が悪く、飲酒後の失政。酒に溺れて捕虜になる。(Claude)

前趙滅亡。戦乱・奢侈・家族殺し。(Grok)

凡庸で国を失った。(Copilot)


偏差順位2:評価不能

 匈奴漢〜前趙を代表する勇将にしてクソ君主と割とコンパチで扱われることの多い劉曜と劉聡ですが、結構ランキングでは水をあけられました。それはそう。ちょっと劉聡くんのおいた激しすぎです。

 偏差順位2位ということで、各AIは盛大に劉曜をどう扱って良いものかで戸惑っています。もちろん亡国の王です。あと石勒を趙王に封じておいて自分も趙帝名乗るのはさすがに死ねよって思ってます。とはいえ、ならば激しい暴君なのか、と言われれば首かしげ。諫言してきた臣下を斬り殺すとかも普通にやってはいるんですけどね。この人の印象として大きいのはただひとつ、同時代に石勒にいられてしまった、ただただこれに尽きるという印象です。前の時代で言うなら劉邦なき項羽がどうであったか、曹操なき袁紹はどうであったのか。割とそういうレベルだったんじゃないか、と思えてなりません。

 劉曜で有名なのは、最終決戦前に酒浸りになって落馬して捕まった、というもの。ここについても、最終決戦時にいきなり「劉曜は普段から酒癖が悪く、この日も痛飲して戦に臨んだ」とぶっこまれてきています。まぁ疑う意味もあんまりないんですけど、相手の石勒がみずからの前に立ちはだかる難敵をしばしば酒にはめて殺しているのを知っていると「本当でござるかぁ〜???」みたいな顔にならざるを得ません。



○予告


 明日が折り返し地点。Tier B 下位、メンツは劉駿、蕭鸞、慕容宝、慕容暐、蕭繹。さすがに濃くなってきました。一般知名度はそれほど高くない五人ですので、どちらかと言えば事績メインで紹介したいと思います。ちなみにAIくんたちで面白いのは慕容暐、蕭繹。両名についてAIくんたちは「まぁだいたいこの辺のクソっぷりだよね」と見解を揃えてきています。なのでこの両名を見ていただくのがトップ25に入る前の標準的クソぶり、とみなせるかと思います。

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