冬の寒さにコートの襟を立てて行く。
都会の雑踏を避けて細い路地へと入ると、
何処からともなく美味しそうな鰹出汁の
軽やかな香が流れて来る。
そこは 年末にしか営業しない不思議な
蕎麦屋 『藤庵』
店主の藤吉と、若い店員の秀吉で切盛り
しているこの蕎麦屋には、今日も
切羽詰まった曰く付きの客が一杯の温かい
蕎麦を求めてやって来る。
青い顔で来店するや、食券も買わずに
テーブルで震える男性客は、ホラー作家。
恐ろしい曰くのある祠を壊してしまったと
いうこの男は、祟られて死ぬ前に
美味しい蕎麦を食べたいと言うが…。
小気味良い語りと微妙なツッコミ所を
用意して…とんでもない所へと誘われる。
ホラー作家の男は何故、最期の晩餐に
『藤庵』の 蕎麦 を選んだのか。
怖い話なのかと思っていると、人情に
ほろりとさせられて、そこからのSF感。
そしてこれはミステリーなのだと
納得させられる。
お蕎麦にも、こんな 美味しいセット が
あればいいのに。
……そこかよ、と。