第2話 アルテナ

第2話 アルテナ

(Altena )


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 荒廃しきった砂漠の夜には

冷たく乾いた風が吹きつける。


 そこにはもう一人、夢から目覚めようと

している者がいたーーー


 その人物は、砂漠の上でうつ伏せに倒れていた。


 体じゅうに砂が覆いかぶさり、その姿はホログラムのように不確かで、今にも消えてしまいそうなほどに薄い。


 すると突然ーー


 その人物=栗色の髪をした少年が

 機械音とともに目を覚ました。


 「シュウィーンッガチャッ!・・・」


 「……んんん?うーん……」


 「むぐあッ!?!」


 「うえ"えぇ……なんだ?」

 「砂っ?!口ん中、砂だらけ!」


 少年が周囲を見渡すと、辺り一面砂漠だった。


 暗い夜空には月の代わりに、人の心を惑わせる幻環の白紫光が地上を照らし出していた。


 そして少年の胸には、あおく脈動する

『 小さな装置 』が埋め込まれており、それが彼を強制的に再起動させたのだった。


-----起動ログ:アルテナ

---再構築率:0.03%

欠損記憶ロストコード:膨大(笑)


 「うおお!なんかいきなりしゃべったー!!?

 (笑)ってなんだよ!つーか……」


 「どこだ……ここは……」


 アルテナは思わず砂漠で一人ツッコミをかまし、月のない夜空を仰いで深いため息をついた。


 額に当たる風は冷たく、確かに感覚があった。

痛みも息苦しさもちゃんと生きてるみたいに

感じる。


 「……あれ?そういや俺って」


 「今までどうしてたんだっけ?」


 そんな言葉を口にした瞬間ーー


 「ッ……!」


 頭の中に白い歪みノイズが走り、

映像の断片がいくつも浮かんでは消えた。


 出しっぱなしの設計図。工具と重ねられた木製のイス。油と木屑が混ざった、あのにおい。


 それに、なんだ?豪快な誰かの笑い声がする。

女の人の声か?


 「なんか、やたら懐かしーな。」


 でも、また思い出そうとすると、

途端に世界がざらついて、

強制的に途切れる。


 アルテナは額に手を当て苦笑した。


「まあ、いっか!生きてるだけマシだしな。」


 そう言うと彼は立ち上がって、足元の砂を蹴りながら歩き始めた。その砂のひと粒ひと粒が歩くたびに淡く光っては消えていった。


 それはただの砂ではなく、崩壊した

『 都市の記憶の欠片 』であった。


 砂漠地帯を埋め尽くすほどのその微細な欠片は、

今はもう遥か彼方へと消え去った『 人類の記憶の残骸 』だったのだ。



 「なーんも思い出せねえけど。

気晴らしに散歩でもすっか。」


 歩くたびに遠くで風が鳴いていた。

金属の骨組みが悲鳴を上げるような音を上げる。


 夜空には『 幻環 』がゆっくりと回り続けている。その白紫色はくしいろの光が、一人砂漠を歩くアルテナの頬を妖しく照らしつけていた。


 すると突然、彼の胸が小さく震えた。


 「ん?なんだ」


 アルテナの左胸の装置が歪みノイズと共に

『 未知の信号 』を捉え、再びしゃべり出した。


-----信号源モールス検出

---波形パターン:不明

--位置:……北東方向、およそ3.9キロ先

-生体反応………あり


 「生体反応?まさか……

こんな砂漠におれ以外の人間が?」


 アルテナがふと顔を上げると、遠くの空で紅い光が真っ直ぐ闇を突き破るように、砂漠の夜空に立ち昇っている。


 「なッ?!」

 「なんだあれ!?」


 砂漠の冷たく乾いた風はなおも吹き続ける。

少年アルテナは少しの迷いもなく、紅い光の方角へと歩き始めると、左胸の装置が今度はまるで心臓のように脈打ったのであった。



ドクンッ



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