第2話


 目を開けると、見知らぬ森の中にいた。

 先ほどまでは海の見える場所を歩いていたので明らかに違う。さらに手には鞄と……ドローン。


(ヤベッ、ドローン持ってきちゃったよ……でも、森の中って……これ罰ゲームか?)


 俺としては、全く意図せぬタイミングで、意図せぬ場所に連れて来られてお礼どころか罰ゲームの気分だったが、ペロは上機嫌だ。


「さぁ、着きました!! ここが私の星です。どうです、異世界って感じでしょう? 何といっても素晴らしい空気が自慢です!!」


 正直、森の中で空気が素晴らしくても目新しさはないし、異世界感も全くない。悪いが、地球儀の掲げてあるテーマパークの方が異世界感に溢れている。


「あ~~まぁ~~確かに空気はいいな。うん、もういいぞ。元の場所に戻してくれ」

「え……どうして、そんなことを……」


 もう面倒になったので、さっさと元の場所に戻ることにして声をかけた。するとペロは絶望的な顔で俺を見た。

 正直、動物に悲しい顔をされるのはつらいのでやめてほしい。


「いや、どうしてて、俺、これから用事あるし」


 ペロは俺をうるうるとした瞳で見上げた。


「異世界ですよ。異世界転生ですよ。冒険したり、楽しまなくていいんですか?」

「いい」


 きっぱり答えると、ペロが大粒の涙を流して泣き始めた。


「そんなぁ~~きっとこちらの世界で100年くらいは過ごされると思って力をほとんど使っちゃいましたぁ~~」

「100年って……随分長生き設定だな……」

「ぴえ~~ん、ぴえ~~ん」


 ペロの涙が滝のように流れて、面倒なことになった。

 

「はぁ~~泣くな。一応確認するが、100分でも、100時間でも、100日でもなく、100年なのか?」


 ペロは涙を止めて、短い両手を腰に当ててドヤ顔で答えた。


「もちろんです!! これでも私は優秀なので、単位もばっちりです!! 間違いなく100年です!!」

「あ、そう」


 100年もこちらにいると言うことは、もう生きて地球に帰ることもないのだろう。

 それに地球に戻らなかったところで、誰かに心配をかけるわけでもないし、悲しむ人間もいない。


「じゃあ、適当な町を見つけて働くか」

「ええ~~!? 町で働く!? 冒険しないのですか?」

「しねぇな」

「どうして!? 異世界に転生したら、冒険するのが普通なのでは!?」


 俺はため息をついて、ペロの頭に手を置いた。


「お前の情報は若干偏りがある。冒険も確かに王道だが、異世界スローライフってのも人気なんだよ」


 適当になぐさめると、ペロが目を輝かせた。


「異世界スローライフ!! 言葉の意味はよくわかりませんが、なんだか良さそうです!!」

「だろ!? ほら、行くぞ」

「はい!!」


 そして俺は歩きながらペロを見た。


「あとな、ひとつ大切なことを教えてやる」

「何でしょう!!」


 俺は真剣な顔をしているペロを見ながら言った。


「これ……異世界転生じゃなくて、異世界転移な」

「え!?」

「俺、誰にも生まれ変わってねぇし。移動しただけだから、異世界に転生してねぇ」


 ペロは頭を抱えて、「そんな違いが!! 異世界に来れば全部転生だと……NOOO!!」と叫んでいた。

 どうやら、NOを知ってるくらいには英語も少しは勉強したようだ。スローライフが知らなかったが……

 俺はこのおかしな生き物と共に町を探すために歩き始めた。



 




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