乙女の秘密の指あそび 〜指先で確かめる私の輪郭〜

白月真尋

プロローグ:ガラスの箱庭


今朝もまた、窓の外は深い霧に包まれていた。


山あいの小さな町。

湿った空気と、古いしきたりが纏わりつく家。


厳格な両親の視線は、

言葉はなくとも美咲の「在り方」を静かに、

けれど強く縛り付けていた。


そんな息の詰まるような静寂が、

彼女を内気で、どこか影のある少女へと

育て上げたのかもしれない。



──────。



夜、家族が寝静まったのを確認して、

美咲は机の一番下の引き出しを音もなく開けた。

参考書の海の奥底。

そこに隠すようにしまってある、一冊の文庫本を取り出す。


背表紙は擦り切れ、ページは何度もめくったせいで柔らかく波打っている。


著者のペンネームは、どこか変わった響きで、打ち上げられたガラスの欠片を思わせる名前だった。


指先でその文字をそっとなぞり、導かれるようにページをめくる。

そこに記されていたのは、孤独な少女が自らの身体を慰め、

性の喜びに溺れていく様を、痛いほど繊細な筆致で描いた物語だった。


(……この子も、私と同じ……)


誰にも言えない秘密。

けれど、このページの中だけには、自分と同じ「熱」を持った少女が息づいている。

美咲にとってこの本は、唯一、窒息しそうな日常の中で『生きてる』ことを実感できる、

罪深くも甘美な教科書だった。


活字を目で追うだけで、条件反射のように身体の奥が疼きだす。

物語の中の少女が指を濡らす描写に、美咲自身の呼吸も荒くなる。


それは抑圧された日常からの逃避であり、

自分が自分であることを確かめる、

ささやかな儀式でもあった。


美咲は本を閉じ、大切に枕元へ置くと、

逃げ込むように重たい布団の海へと潜り込んだ。


小さく息を吐き出すと、

パジャマのズボンへ、そっと手を滑り込ませた。


(……誰も起きてないよね……)


指先が下着越しに下腹部を撫でる。

冷えた指先に伝わる自分の体温。

その温もりがじわじわと広がり、

まだあどけなさの残る身体を微かな震えが駆け巡る。


本の中の少女に自身を重ね合わせ、

秘裂に指を軽く押し当てると、

クチュ……と卑猥な水音が立ち、

下着の布地を濃い色に染めていく。


(あぁ……気持ちいい……でも、声は……)


自分を戒めるように唇を噛み、

下着をずらして、恐る恐る熱源へ直接触れる。


溢れ出た蜜はすぐに指先を滑らかにし、

敏感な突起を円を描くように優しく弄ると、

美咲の背中がびくりと小さく弓なりに反った。


(あ……っ、そこ……)


もう片方の手で、

パジャマの上から膨らみ始めたばかりの乳房を弄る。

指先で乳首を引っ掻くと、

胸の奥から走る鋭い痺れがそのまま下腹部へと伝わる。


呼応するように、

秘部を愛でる指の動きが自然と速まった。


(ん……っ、どっちも……きもち、いい……)


静寂な部屋に、

クチュ、クチュ……と、

粘り気のある水音だけが小さく響く。


絶頂の波が近づくと、

美咲はとっさに声を漏らさぬよう、

枕に深く顔をうずめた。



「……っん……ぁあ……ん……!」



波にさらわれる快感に身を任せながらも、

シーツを汚さないよう腰を浮かせ、

胎児のように小さく身体を丸める。


やがて訪れた甘い嵐が、

足の指先までを痺れさせて通り過ぎていく。


「はぁ……っ……はぁ……」

(これが、誰も知らない私の秘密……)


火照った身体と、指先に残る自分の匂い。

そして、枕元にある一冊の本。

(……ここにある世界だけが、本当の私)



──────。



​窓の外を支配する冷たい霧に、

その存在すら消されてしまいそうなほど、彼女の佇まいは儚い。


彼女は開放感と安堵がないまぜになった微睡みの中で、

自分の中に灯った微かな熱だけを抱きしめるように、

いつしか深い眠りへと落ちていった。

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