絵画と美青年
チェンカ☆1159
絵画と美青年
ルナスはとても美しい顔立ちの青年です。彼を見た周囲の大人達は口を揃えて言いました。
「まるで絵画からそのまま出てきたようだ」
それは心からの褒め言葉でしたが、ルナスは愛想良く微笑むだけでした。
それには大きな理由がありました。
これはルナスと、彼が愛する一枚の絵のお話です。
ルナスがまだ幼い少年だった頃、彼は一人の老人と交流がありました。その老人は画家をしており、一枚一枚魂を込めて描いていました。
老人の描く絵に心を奪われたルナスは毎日のように老人の元へやって来ては絵を描く姿を眺めていました。
ある日老人が声をかけてきました。
「やぁ坊や、ワシの絵に興味があるのかい?」
「うん!おじいさんが描いてる絵、とってもきれいで、とってもすいこまれそうなの!」
「おや、坊やは絵のことをよくわかっているようだな」
老人は感心した様子でこう続けました。
「なぁ坊や、少しの間絵とイーゼルが風で倒れないよう見ていてくれないか」
「もちろんいいよ!」
ルナスにとっては老人の絵をじっくり見ることができるまたとない機会でした。
彼は老人を見送った後、イーゼルに立てかけられた絵をもっとよく見ようと近づきました。
噴水を描いたその絵は他の絵画にはない魅力があるように思えました。
ルナスがじっと絵を見つめていると、背後から指先くらいの大きさの虫が一匹飛んできました。虫は真っ直ぐ絵に向かっています。
「あっ、まずい!」
虫がくっつけば絵が台無しになってしまうかもしれない。そう考えたルナスは慌てて手を伸ばしました。
すると、驚いたことに虫もルナスも絵の中に吸い込まれてしまったのです。
「あれ?ここは……」
ルナスは気がつけば噴水の前に立っていました。けれども周りには誰もいません。ここにいるのはルナス自身と、先程捕まえ損ねた虫だけです。
「どうしよう……」
絵の中に入ってしまったルナスは泣きそうな声で呟きました。
「誰か!誰かいないの!?」
大声を出してみますが、返事はありません。ルナスは周りをもう一度見てあることに気がつきました。
噴水も木も何も動いていません。空の上の雲だって、ぴたっと止まったままなのです。
「そういえばあの虫は?」
ルナスは慌てて先程の虫を探しましたが、彼の見える場所にはいませんでした。
「どうしよう。ボク、ずっとこのまま……?」
目から涙が溢れます。
「嫌だよ、パパ、ママ、おじいさん……」
すると次の瞬間、老人の声が耳に届きました。
「坊や!」
はっとして顔を上げると、目の前には老人がいました。
「おじいさん……」
「早く戻ってきて良かった。大事なことを伝え忘れてすまんかったな」
「だいじなこと?」
「そうとも」
老人は頷くと、驚きの事実を口にしました。
「ワシの絵は特別でな、ワシ以外が触れると絵の中に閉じ込められてしまうんだよ。そして時間が経ってしまうと――」
「ボク、ずっとあのままだったってこと?」
「そうだ。心細い思いをさせてすまなかったな」
老人が改めて謝ると、ルナスは首を振りました。
「ううん。ボク平気だよ。だってこの絵、とってもすごいってわかったんだもん」
それを聞いた老人は優しく微笑んで言いました。
「お詫びというのは変だが、今度おまえさんの絵を描いてあげよう」
「ありがとう。でも、ボクを描いてくれるならこの絵の中にしてよ」
ルナスの言葉に老人は驚きました。
「本当にこの絵でいいのかい?」
「うん!だって誰かがいた方が、絵もさびしくないはずだもん!」
笑顔で元気よく断言すると、老人も微笑みました。
「たしかに、そうかもしれないな」
こうして、ルナスが描き足されたこの絵は彼にとって大事な宝物となりました。
そしてルナスは成長するにつれて老人が描いたような美しい顔立ちになっていったということです。
絵画と美青年 チェンカ☆1159 @chenka1159
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