第7話「余剰人員の排除」**





**第七話「余剰人員の排除」**


**奥飛騨の森。血と泥の臭いが充満する闇。**


「ハァ……ハァ……ハァ……」


美紀は肩で息をしながら、スコップを杖代わりにして立ち尽くしていた。

足元には、もはや原型を留めていない肉塊――かつてありさだったもの――が転がっている。

動かない。今度こそ、完全に沈黙している。


その凄惨な光景に、サトシは震えが止まらなかった。

嘔吐感をこらえながら、彼は絞り出すように言った。


「ど、どうすんだよ……? あんたら……」


サトシの視線は、肉塊に釘付けになっている。

「まだ……生きてたんだよ!? 彼女……さっき、喋ろうとしてたじゃないか! それを、あんな……!」


殺意を持って埋められた被害者が、奇跡的に息を吹き返して這い出してきた。

それを、救助するどころか、再び、しかも今度は確実に息の根を止めたのだ。

これは死体遺棄ではない。明確な殺人だ。


サトシの言葉に、大樹がゆっくりと顔を上げた。

彼の目から、先ほどまでの怯えは消えていた。

代わりに宿っているのは、冷たく、濁った光。


「……あ?」


大樹は首をかしげ、サトシをじろりと見た。


「なんだ? お前」


低く、ドスの利いた声。

大樹は、まるで汚いものでも見るかのように鼻を鳴らした。


「さっきから、うるさいんだよ。……そもそも、なんでここにいる?」


大樹が一歩、サトシの方へ踏み出す。

美紀もまた、血濡れの顔を上げ、虚ろな目でサトシを見た。

スコップを握る手に、再び力が込められる。


サトシはヒッと息を呑み、後ずさった。

空気が変わった。

彼らは今、「ありさ」という脅威を排除し終えた。

そして今、彼らの目の前には、「自分たちの殺人を目撃した、無関係な他人」がいる。


「レンタカー屋……だったか?」

大樹がポケットから煙草を取り出し、震える手で火をつけた。

煙を吐き出しながら、彼はニタリと笑った。


「お前、全部見てたよな?」


それは、質問ではなかった。

死刑宣告だった。


(第七話 完)

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